絵入り年代記集成

絵入り年代記集成：イヴァン雷帝の時代を映す歴史絵巻

『絵入り年代記集成』は、16世紀にイヴァン雷帝の命によって編纂された、ロシアの歴史を綴る豪華な年代記です。全10巻から構成され、「ツァーリの書」とも呼ばれています。約1万枚のラグペーパー（ぼろ布から作られた紙）に、1万6千点を超えるミニアチュール（挿絵）が描かれており、その красота（美しさ）と詳細な描写は、当時の生活や文化を今に伝えます。

編纂の背景

編纂は1568年から1576年にかけて、アレクセイ・アダーシェフらの参加のもと、アレクサンドロフスカヤ・スロボダで行われたと考えられています。イヴァン雷帝自身の治世に関する記述は、1575年頃に修正が加えられており、政治的な意図も反映されている可能性があります。

完成後、『絵入り年代記集成』はツァーリの大図書館に保管されましたが、16世紀末の動乱時代に各地へ分散してしまいます。そのため、各巻が別々に製本されることになり、長らく全体像の把握が困難でした。

各巻の内容と所蔵

内容は、天地創造から1567年までの歴史を網羅しており、聖書の物語、古代ローマ史、ビザンツ史、そしてキエフ・ルーシからモスクワ大公国に至るロシア史が記述されています。年代記の形式は、初期の巻（1-3巻）がクロノグラフ形式（伝説や聖書などを元にした記述）、後期の巻（4-10巻）がレートピシ形式（編年体の記述）となっています。

現在、各巻はロシア国内の複数の図書館や博物館に所蔵されています。

第1、9、10巻：モスクワ・ロシア国立歴史博物館
第2、6、7巻：サンクトペテルブルク・ロシア科学アカデミー図書館
* 第3、4、5、8巻：サンクトペテルブルク・ロシア国立図書館

21世紀に入り、ファクシミリ版（複写版）と現代ロシア語への翻訳・解説版が刊行され、研究が進んでいます。また、デジタル版の刊行準備も進められており、より多くの人々が『絵入り年代記集成』に触れる機会が広がることが期待されます。

歴史的価値

『絵入り年代記集成』は、単なる歴史書としてだけでなく、中世ロシアの文化、芸術、政治を知る上で非常に貴重な資料です。特に、1万6千点を超えるミニアチュールは、当時の人々の生活、服装、建築物などを鮮やかに描き出しており、 исторический источник（歴史的資料）としての価値は計り知れません。

ロシアの歴史学者B.クロスは、『絵入り年代記集成』を中世ルーシの最も偉大な年代記作品と評しており、その歴史的意義は高く評価されています。

研究の遅れと今後の展望

動乱時代に分散したことが原因で、各部分が独立した年代記として扱われ、『絵入り年代記集成』全体の研究は遅れていました。しかし近年、研究が進み、その全貌が明らかになりつつあります。デジタル化プロジェクトなどを通して、さらに多くの研究者がアクセスできるようになることで、『絵入り年代記集成』の研究はますます発展していくでしょう。

『絵入り年代記集成』は、イヴァン雷帝の時代を映す鏡であり、中世ロシアの歴史と文化を今に伝える貴重な遺産です。その красота（美しさ）と奥深さに触れることで、私たちは過去と対話し、未来への洞察を深めることができるでしょう。

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