綾波 (吹雪型駆逐艦)

駆逐艦「綾波」：激戦のソロモン海で散った黒豹

「綾波」は、大日本帝国海軍の特型駆逐艦（吹雪型）の11番艦として建造されました。艦名は、重なり合う波に由来し、その名を受け継ぐ艦艇としては二代目にあたります。

艦の概要

「綾波」は、吹雪型駆逐艦の改良型として、特II型駆逐艦（綾波型）の一番艦に分類されます。主な特徴として、煙突の形状や主砲のタイプが従来の吹雪型とは異なっています。

艦歴

1928年、大阪の藤永田造船所で起工。建造中の同年8月1日に「綾波」と命名され、1930年4月30日に竣工しました。日中戦争では、上海や杭州での上陸作戦を支援。太平洋戦争開戦時には、第1艦隊第3水雷戦隊に所属し、マレー半島上陸作戦を支援しました。

1941年12月19日には、オランダ海軍の潜水艦を撃沈し、生存者を救助。1942年2月には、暗礁による損傷で蘭印作戦への参加を断念、その後は重巡「鳥海」と行動を共にしました。同年4月には、ベンガル湾機動作戦に参加。帰国後は、ミッドウェー海戦に主力艦護衛部隊として参加しました。ガダルカナル島の戦いでは、輸送任務（鼠輸送）に従事しました。

第三次ソロモン海戦

1942年11月14日から15日にかけて行われた第三次ソロモン海戦は、「綾波」の名を歴史に刻んだ戦いでした。この海戦での「綾波」の活躍は、日米の記録に食い違いが見られますが、いずれもその奮戦ぶりを伝えています。

「綾波」は、第三水雷戦隊の一員として、サボ島付近を哨戒中、米艦隊を発見。敵艦隊の情報が届かない中、艦長、作間英邇中佐の指揮の下、単艦で突撃を開始します。

米艦隊に対し、砲撃と魚雷攻撃を敢行し、駆逐艦「ウォーク」を撃沈、駆逐艦「ベンハム」を航行不能に追い込み、戦艦「サウスダコタ」にも命中弾を与え、一時的に戦闘能力を奪うという戦果をあげました。しかし、米艦隊からの集中砲火により、自身も大きな損傷を受け、航行不能となってしまいます。

それでも、「綾波」の乗組員たちは、艦が沈没する直前まで戦い続けました。乗員は退艦し、駆逐艦「浦波」に救助されました。その後、「綾波」は魚雷の誘爆により沈没しました。

この海戦で、「綾波」は、単艦で敵艦隊に突撃し、戦艦1隻、駆逐艦2隻を撃沈破するという目覚ましい戦果を挙げました。この戦果は、当時の日本軍将兵の士気を大いに高めましたが、同時に、この戦果は誤認に基づいたものであったという事実もあります。

米軍側の視点

米軍側の記録によると、アメリカ艦隊は、サボ島近海で日本艦隊を待ち伏せしていました。「綾波」の魚雷攻撃は命中しなかったとされていますが、アメリカ駆逐艦2隻が沈没し、2隻が損傷するなど、日本側の攻撃によって大きな損害を被っています。

戦果

「綾波」は、第三次ソロモン海戦での単艦での奮戦が非常に有名で、駆逐艦としては異例の戦果をあげたにもかかわらず、乗員の多くが生還したことも特筆すべき点です。艦長の作間英邇中佐も生還し、その証言が残されています。

その後

「綾波」は、第三次ソロモン海戦での戦没により、1942年12月15日に除籍されました。

発見

1992年、海洋研究者ロバート・バラードらのチームにより、サボ島沖の海底で「綾波」が発見されました。当初は同型の「暁」と誤認されましたが、関係者の証言により「綾波」であることが確認されました。

歴代艦長

「綾波」の歴代艦長は以下の通りです。

後藤鉄五郎 中佐：1930年4月30日 - 1931年12月1日
河原金之輔 中佐：1931年12月1日 - 1933年11月15日
藤田俊造 中佐：1933年11月15日 - 1935年11月15日
崎山釈夫 中佐：1935年11月15日 - 1936年12月1日
杉野修一 中佐：1936年12月1日 - 1937年11月15日
白石長義 少佐：1937年11月15日 - 1938年4月15日
岡部三四二 少佐：1938年4月15日 - 1938年12月1日（兼任）
原為一 中佐：1938年12月1日 - 1939年11月15日
有馬時吉 少佐：1939年11月15日 - 1941年9月12日
作間英邇 中佐：1941年9月12日 -

「綾波」は、その短い生涯の中で、数々の激戦を戦い抜き、その武勇は、今もなお多くの人々に語り継がれています。

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