総社藩

総社藩：上野国に栄えた短命の藩と名君・秋元長朝

総社藩は、現在の群馬県前橋市総社地区付近を領地とした、江戸時代前期に存在した藩です。徳川家康の関東入国後の知行割によって成立し、わずか30年余りの歴史に幕を閉じました。本稿では、総社藩の歴史、特に藩主を務めた諏訪氏と秋元氏、そして領地開発や治水事業で知られる秋元長朝の事績を中心に解説します。

前史：惣社郷と惣社長尾氏

総社という地名は、前橋市元総社町にある総社神社に由来します。鎌倉時代には惣社郷と呼ばれ、室町時代には長尾氏の一族が拠点とし、惣社長尾氏として関東管領山内上杉家の家宰を務めた長尾忠政を輩出しました。戦国時代には、惣社長尾氏が蒼海城（現在の前橋市元総社町）を築き、上杉氏、武田氏、織田氏、北条氏など様々な勢力の支配下に入りました。小田原合戦では豊臣方に落とされ、その後、徳川家康の関東入国によって新たな支配体制が敷かれることになります。

諏訪氏領時代：信濃の名族の移封

信濃国の名族・諏訪氏は、武田信玄の侵攻によって滅亡寸前となりましたが、武田家滅亡後、旧臣らの支援を受けて諏訪郡を回復しました。その後、徳川家に従属し、天正18年（1590年）の小田原合戦後、当初は武蔵国に領地を与えられましたが、文禄元年（1592年）に上野国総社に移封されました。この移封を総社藩の成立とする見解が一般的です。諏訪氏は蒼海城を居城としたとされますが、既に荒廃していたため、長屋を設けて居住したと伝えられています。慶長6年（1601年）、諏訪頼水は旧領である信濃国諏訪（高島藩）に移封され、総社藩は新たな藩主を迎えることとなりました。

秋元氏領時代：名君・秋元長朝の治世

慶長6年（1601年）、秋元長朝が6000石の加増を受け、1万石で総社に入封しました。秋元長朝の父は上杉氏一族の深谷上杉家の重臣であり、長朝自身も当初は上杉氏に仕えていましたが、のちに徳川家康に仕え、関ヶ原の戦いの前後には両陣営の使者として活躍しました。この功績が認められ、父の墓所があった総社への入封となったとされます。

長朝は、荒廃していた蒼海城を放棄し、植野勝山と呼ばれる地に新たな総社城と城下町を築きました。城下町である総社町は、佐渡奉行街道の宿場町としても栄えました。また、長朝は領内総検地を実施し、天狗岩用水を開削するなど、領地の開発と治水に尽力しました。天狗岩用水は、利根川から取水した用水路で、農地開発だけでなく、総社城の外濠や防火、馬の給水などにも利用されました。この功績により、長朝は総社において名君として慕われています。

長朝は元和8年（1622年）に家督を子の泰朝に譲り、寛永5年（1628年）に死去しました。泰朝は、大坂の陣や日光の造営奉行などで活躍しましたが、寛永10年（1633年）に甲斐国に移封され、総社藩は廃藩となりました。

総社藩の廃藩後と秋元家の影響

総社藩の廃藩後、総社領は高崎藩主安藤重長に与えられましたが、宝永6年（1709年）には安藤信富の悪政により領民が訴訟を起こす「総社騒動」が起きました。この訴訟では、秋元氏の治世と比較して安藤氏の時代が年貢率が大幅に増加した点が問題視されました。訴訟の裁定では安藤信富は領地を移され、秋元家は旧領とのつながりを保ち続けました。総社領民は、秋元長朝の功績を称え、力田遺愛碑を建立しました。また、天明の大噴火の際にも、秋元家は義援米を送っています。これらのことから、秋元家と総社のつながりは、藩の存続期間をはるかに超えて続いていたことがわかります。

総社城と城下町

総社城は、利根川右岸の断崖上に築かれ、東西800m、南北750mにも及ぶ規模を誇りました。城の西側には侍屋敷、さらに外側に城下町が形成されました。城下町には、旧蒼海城下からの住民も移り住みました。総社町は佐渡奉行街道の宿場町としても栄え、幕府道中奉行の管轄下に置かれるなど、重要な交通の要衝でした。廃藩後も、幕府領、沼田[[藩]]領、前橋[[藩]]領と変遷を繰り返しながら、歴史を刻んできました。

総社藩の遺産

総社には、秋元氏ゆかりの寺社が複数残されています。元景寺は秋元長朝が父の菩提を弔うために建立した寺院であり、光巌寺は秋元家の菩提寺として、歴代藩主の墓域が整備されています。また、長朝が創建した伊勢殿（現在の総社神明宮）は、総社町の総鎮守として現在も信仰を集めています。これらの遺産は、総社藩の歴史と秋元氏の功績を今に伝えています。現代でも、「総社秋元公歴史まつり」が開催されるなど、秋元長朝は名君として、地域住民に深く記憶されています。

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