緑色非硫黄細菌

緑色非硫黄細菌（りょくしょくひいおうさいきん）

緑色非硫黄細菌は、酸素を放出しない光合成を行う細菌のグループです。細長い細胞が連なり糸状の群体（フィラメント）を形成し、表面を滑るように移動する独特な運動性（滑走）を持ちます。

このグループは「緑色糸状細菌」「緑色滑走細菌」とも呼ばれますが、名称には混乱が見られます。標準的には緑褐色を呈しますが、種類や条件により赤褐色を示すことも。「非硫黄」と名が付いていますが、硫化水素を光合成に利用し硫黄粒を蓄積する種も含まれます。

そのため、専門家の間では「filamentous anoxygenic phototrophs (FAPs)」、すなわち「糸状酸素非発生型光栄養生物」という呼称が一般的になり、従来の「緑色非硫黄細菌」は過去の名称と見なされています。名称の混同を避けるため、現在はクロロフレクサス（Chloroflexus）という属名がグループ全体の総称として使われることも多くなっています。広義には、非光合成性の近縁種を含むクロロフレクサス門（Chloroflexi）全体を指す場合もあります。

特徴

緑色非硫黄細菌は、細長い細胞が縦につながって糸状の群体を作り、滑走運動を行います。グラム陰性ですが、細胞壁構造は特徴的です。多くの種が好熱性で、弱アルカリ性の温泉などでバクテリアマットを形成します。

これらは基本的に通性嫌気性生物で、有機物を代謝する従属栄養を主としますが、無機物を利用する独立栄養性の種もいます。酸素が存在する環境では、有機物からエネルギーを得る化学合成従属栄養を行う種も知られています。

嫌気条件下では、光エネルギーを用いた酸素非発生型光合成を行います。この光合成には光化学反応中心とクロロソームが関与します。光化学反応中心はキノン型で、紅色細菌や酸素発生型光合成の光化学系IIに類似。主要な光合成色素はバクテリオクロロフィル a です。光捕集系クロロソームには、補助色素としてバクテリオクロロフィル c や d、カロテノイドが含まれる種が多くあります。クロロソームは緑色硫黄細菌との共通点ですが、両者は系統的に遠縁です。

分類

緑色非硫黄細菌の分類は、発見以降、見直しが行われてきました。1970年代初頭にChloroflexus aurantiacusが発見され、クロロフレクサス科に位置づけられました。2000年に一部がオシロクロリス科として分離、2013年の整理でロセイフレクスス亜目が新設されました。

現在、これらの科を含むグループはクロロフレクサス目（Chloroflexales）と呼ばれ、16S rRNA解析に基づきクロロフレクサス門（Chloroflexi）に所属します。クロロフレクサス目には、クロロフレクサス亜目（Chloroflexineae）とロセイフレクスス亜目（Roseiflexineae）が含まれます。

クロロフレクサス亜目

クロロフレクサス科
Chloroflexus 属：C. aurantiacus、C. aggregans が知られ、日本の温泉から分離された好熱性種。通性嫌気性で、光合成従属栄養、独立栄養、化学合成従属栄養と多様な代謝を行います。
オシロクロリス科
Chloronema giganteum：クロロソームにバクテリオクロロフィル d を含みます。
Oscillochloris 属：O. chrysea、O. trichoides が知られ、中温性で偏性嫌気性。光合成従属栄養や、硫化物を利用した光合成独立栄養を行います。

ロセイフレクスス亜目

ロセイフレクスス科
Heliothrix oregonensis：クロロソームがなく、バクテリオクロロフィル a のみで橙色を呈する好熱性種です。
Roseiflexus castenholzii：クロロソームがなく、バクテリオクロロフィル a のみで赤褐色を呈します。日本の温泉で発見された好熱性種で、通性好気性、光合成従属栄養、化学合成従属栄養の能力を持ちます。

これらの微生物は、極限環境に近い温泉で生存し、生命の多様性や光合成の進化を研究する上で貴重な存在です。

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