練馬事件

練馬事件（I巡査殺害事件）

練馬事件、またはI巡査殺害事件は、1951年12月26日に東京都練馬区で発生した重要な事件です。この事件では、現職の警察官、I巡査（当時33歳）が殺害され、彼の拳銃が奪われるという衝撃的な出来事が起こりました。事件の背景には、当時の政治状況や労働争議が深く関与しています。

事件の背景

戦後日本において、日本共産党は内部分裂を経て、武装闘争を掲げるようになり、活発な活動が展開されていました。同年、練馬区に位置する小田原製紙東京工場では、労働条件をめぐる抗争が発生していました。賃上げを求める組合と会社の対立が続く中、組合内部でも激しい分裂が見られました。過激派の第一組合と穏健派の第二組合が対立し、互いに衝突していたのです。

I巡査は旭町駐在所に勤務しており、情報収集のために工場の労働組合に頻繁に出入りしていました。この行動が一部の組合員の反感を招き、I巡査に対する抗議や威圧行動がエスカレートしました。特に共産党支持者による「Iポリ公」と呼ばれるビラが撒かれ、強い敵愾心が表現されていました。

殺害の経緯

1951年12月26日の午後10時20分、I巡査は「小田原製紙の横に人が倒れている」という不審な通報を受け、現場に向かいました。それ以来、彼からの連絡が途絶え、心配した妻が他の警察署に連絡。午前7時頃、I巡査は畑道脇で無惨にも撲殺されているのが発見されました。

遺体は仰向けに倒れ、顔や頭に十数箇所の傷があることが確認されました。また、彼が持っていた拳銃は奪われていました。周囲には格闘の跡や足跡が多数残されており、事件の凄惨さを物語っていました。

事件の捜査と逮捕

警察は、この事件がI巡査が労働争議の監視を行っていたことへの報復であると考え、主な容疑者として日本共産党の地元幹部や製紙工場の組合関係者を逮捕しました。逮捕者の供述をもとにさらなる捜査が進み、共謀者たちも次々と明らかになっていきました。

東京地方検察庁は、I巡査が労使対立の中で労働組合から敵視されていた背景を説明し、共産党が計画的な犯行を働いたと断定しました。11人の容疑者が強盗致死罪や傷害致死罪で起訴され、その後の裁判で共謀共同正犯としての判断がなされました。

裁判とその後

裁判では、警察が主張する順次共謀の適用について争点となりましたが、最高裁判所はこれを認める判断を下しました。1953年4月の一審では、一部の被告に対し懲役が言い渡され、控訴もありましたが、その後の高等裁判所でも一審判決が支持されました。

この事件は、戦後日本における政治的な対立や労働運動の複雑さを浮き彫りにし、社会的にも大きな影響を与えました。後の判例においても、共謀共同正犯の重要なケースとして位置づけられています。事件は単なる殺人事件に留まらず、その背後には社会運動や政治的な対立が潜んでいたことが明確にされているのです。

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