縅

縅（おどし）とは

縅（おどし）とは、日本の小札（こざね）式の甲冑において、小札板を革や糸などの緒で上下に結び合わせる製造様式のことです。この連結に用いる緒は縅毛（おどしげ、古くは「貫緒」）と呼ばれます。小札に穴を開け、縅毛を通して複数の小札を繋ぎ合わせることで、装甲に可動性を持たせます。小札を左右に結び合わせる技法は、横縫（よこぬい）や下緘（したがらみ）、横綴（よことじ）、横搦（よこがらみ）などと呼ばれ、主に牛馬の革が用いられます。

語源

「縅」の字は、元来「威」と書いていました。「緒を通す」、すなわち「緒通す（おどおす）」という言葉に「威す」の字を当てたものです。平安時代以前には「貫（つら、ぬき）」「連」などとも記されていました。その後、「威」に「糸」偏をつけた和製漢字である「縅」が用いられるようになり、現在に至ります。

種類

縅は、その手法と材質によって様々な種類に分類できます。

手法による分類

縅の主な手法は、上下の小札を結び合わせる毛立（けだて）と、札頭（さねがしら）から出た縅毛を小札にからめて留める緘（からみ）の2つです。

毛立
縦取縅（たてどりおどし）：垂直に縅していく古い手法です。
毛引縅（けびきおどし）：下と右上の順を繰り返しながら、札に「W」状につなげていく最も正統で美しいとされる手法です。
素懸縅（すがけおどし）：縦取縅の省略ともいえ、間隔をおいて菱形に交差させながら2本ずつ縅します。
寄懸（よせがけ）：間隔をおいて3本以上ずつ縅します。
緘
縦取緘（たてどりがらみ）：縦取縅に使われます。
縄目緘（なわめがらみ）：毛引縅に使われ、斜め状の縅毛が横に連続するため縄のように見えます。
菱綴（ひしとじ）：「X」状で、素懸縅に多く用いられます。

材質による分類

縅毛の材質の違いにより、以下の3種類に大別されます。

糸縅（いとおどし）：絹などの糸を組んだ緒を使用します。
韋縅（かわおどし）：鹿の皮の緒を使用します。
綾縅（あやおどし）：絹の織物（布帛）の緒を使用します。

糸縅

絹糸を組んだ組紐を用いるのが一般的ですが、少数ながら科や麻、木綿を用いたものも存在します。色によっても名称が異なり、白糸縅や赤糸縅、紅糸縅など、様々な種類があります。多色を用いたものには、樫鳥縅や啄木縅などがあります。

韋縅

鹿の皮を加工して柔らかくした「韋（かわ）」を用いて縅します。韋は「押韋（おしかわ）」「揉韋（もみかわ）」とも記されます。加工方法によって、洗韋縅や熏韋縅、小桜韋縅などの種類があります。

綾縅

麻布を芯として、その上に絹の織物（綾織物）を用いて縅します。錦縅や練緯縅、布縅などとも呼ばれます。糸縅や韋縅に比べて耐久性は劣ります。

色彩・文様による分類

縅は、革や糸の色目によっても区別されます。

沢瀉縅（おもだかおどし）：オモダカの葉を思わせる三角形の模様に縅したもの。
逆沢瀉縅（さかおもだかおどし）：沢瀉縅とは逆に、逆三角形の模様に縅したもの。
妻取縅（つまとりおどし）：沢瀉縅の頂点から下にかけて半分切り取った形（直角三角形）の模様に縅したもの。
匂縅（においおどし）：上から下にかけて段々に濃い色から淡い色へのグラデーションをつけて縅したもの。
裾濃縅（すそごおどし）：匂縅とは逆に、上から下にかけて段々に淡い色から濃い色で縅したもの。
群濃縅（むらごおどし）：一隅のみを違う色で縅したり、ところどころに濃い色や薄い色で縅したもの。

その他、肩取縅、腰取縅、裾取縅、肩裾取縅、中取縅、緂縅、色々縅など、様々な色彩や文様による分類が存在します。

また、大型の霰の石畳や、家紋や日の丸などの図柄を縅し出した文柄、立涌、桜縅、紅梅縅、藤縅、山吹縅なども存在します。

縅毛の染色材料としては、茜、蘇芳、紅花、藍、紫根、刈安、鬱金、梔子、黄蘗などが用いられます。

その他

装飾的な要素として、札板の左右両端に用いる耳糸や、最下段に用いる横線状の畦目、同じく最下段に用いる「X」状の菱縫などがあります。また、孔の間隔の広い小札を幅広の緒で縅すことを大荒目縅と呼びます。

参考文献

阪口, 英毅「武具の種類と変遷」『季刊考古学』第76巻、雄山閣、2001年8月1日、34-38頁、ISSN 02885956

関連項目

かさねの色目
織物
皮革
色名一覧
日本の色の一覧

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