絹

絹（きぬ）

絹はカイコの繭から生み出される動物繊維で、その主成分はタンパク質であるフィブロインです。1つの繭からは800メートルから1200メートルの絹糸を得ることができ、天然繊維の中でも唯一の長繊維として知られています。この絹は独特の光沢と滑らかな手触りを持っており、古代から衣類として重宝されてきました。

製品の種類

絹糸には主に2つの種類があります。まずは生糸（きいと）で、カイコの繭から直接引き出された状態の絹糸を指します。一方で、練糸（ねりいと）は生糸からセリシンを取り除くためにアルカリ性の薬品で精練され、光沢や柔軟性を高めたものです。ただし、セリシンを完全に取り除いた絹糸は、少し残っているものに比べて光沢が劣ると言われています。生糸は化学染料に向き、練糸は草木染めに適していますが、19世紀以降の染色法の歴史には注意が必要です。

また、絹には家蚕絹と野蚕絹があり、家蚕絹は養蚕によって育てられたカイコから得られ、野蚕絹は自然界から採取された繭から製造されます。

絹の歴史

絹の生産は紀元前3000年頃の中国にまで遡ります。伝説によると、黄帝の妻である西陵氏が絹の製法を考案したとされ、河南省賈湖の遺体からは8500年前のフィブロインが確認されています。その他にも、紀元前3630年頃の絹の実物が出土しています。

さらに、前漢時代には蚕室の温育法が確立されており、四川省では「蜀錦」が生産されていました。6世紀半ば、北魏の著作『斉民要術』では現在の養蚕方法がほぼ形成されていることが確認されています。絹は陸路や海路を通じて中国からインドやペルシアに輸出され、シルクロードの始まりとなります。古代エジプトやローマでも絹は重宝され、ローマ帝国においては、逆に絹の服装を禁止する法律も出されるほどの人気を誇りました。

中世ヨーロッパでは、シチリアでの生産やヴェネツィアの商業活動が絹貿易をさらに活発にしました。また、日本では弥生時代に既に養蚕が行われており、律令体制下では絹織物の生産が盛んでしたが、中国絹に比べて品質は劣り、やがて生産は衰退しました。

近代化と日本の絹産業

明治維新以降、養蚕業と製糸業は日本において基幹産業の一部となり、殖産興業が進められました。日本が生糸生産において清を上回ると、世界の絹供給における重要な位置を確保しました。しかし、1929年に始まった世界恐慌や第二次世界大戦の影響で、需要が激減し、日本の絹産業は衰退しました。2023年現在、日本で絹糸を製造する会社はごくわずかで、中国やインドにその生産がシフトしているのが現状です。

絹の利用法

絹は布地だけでなく、楽器の弦や絵画材料、縫合糸など多岐にわたって利用されています。絹の特性によっては日常的に使用する際の注意点も多く、特に家庭での洗濯が難しいなどの欠点もあります。絹の布を擦り合わせると「絹鳴り」と呼ばれる独特の音が生じ、これは絹の繊維断面が三角形であるためです。

結論

絹はその美しさと独特の性質から、長い歴史を通じて珍重されてきた素材です。その製造と利用は古代から現代に至るまで多岐にわたり、今もなお世界中で価値を持つ素材として存在しています。

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