縦深攻撃

縦深攻撃（じゅうしんこうげき）

縦深攻撃は、陸上における戦闘で用いられる攻撃に関する軍事理論です。その核心は、敵の防御線を単に正面から突破するだけでなく、前線に加えてその背後に展開する敵部隊や支援体制をも同時に、かつ連続的に攻撃目標とすることで、敵の抵抗能力を根本から破壊し、最終的に敵軍全体を包囲して殲滅することを目指す点にあります。この戦術思想は、圧倒的な戦力を、縦に長い隊列を組んで継続的に投入すること、さらに長距離火砲や航空機を活用して敵の深い後方地域を攻撃すること、そして空挺部隊などを用いて敵の退路を断つといった要素を組み合わせることで実行されます。

この理論は、ミハイル・トゥハチェフスキーによって、ソ連軍における「縦深戦術理論」（あるいは「縦深戦略理論」）として体系的にまとめられました。

歴史的背景と発展

縦深攻撃理論の源流は、1920年代のソ連に遡ります。ロシア内戦を経て、当時の陸海軍人民委員であったレフ・トロツキーらは軍の近代化を主張し、特に機動戦の経験から陸軍の機械化を重視しました。また、参謀総長のミハイル・フルンゼは、軍事作戦を持続させるための兵站（補給・輸送など）の重要性を強調しました。ポーランド・ソビエト戦争において方面軍司令官を務めたトゥハチェフスキーも、自身の攻勢が停滞した経験から、予備部隊の整備や兵站強化による連続的な作戦遂行能力の必要性を痛感しました。

これらの経験と研究に基づき、1920年代後半には縦深攻撃理論の基礎となる「連続作戦理論」が形作られます。1925年に起案された『赤軍野外教令草案』では、機動戦の継続性や、攻撃に際して必要な戦力を集中投入することなどが謳われました。当時の赤軍はまだ機械化の途上にあり、歩兵が主力でしたが、将来的な戦車や航空機の発展を見据えた議論も行われていました。特に、参謀総長代理のヴラジーミル・トリアンダフィーロフは、機械化部隊を歩兵の直接支援、遠距離支援、遠距離行動という三段階で運用すべきだと主張し、また将来の戦闘では、長い縦隊が数日間にわたって反復攻撃を行うことの有効性を説きました。

1930年代に入り、第一次および第二次五カ年計画を通じて赤軍の機械化が急速に進む中で、縦深戦略理論は完成に至ります。トゥハチェフスキーは、地上部隊の機械化に加え、世界に先駆けて空挺部隊を創設し、地上部隊と航空部隊が一体となった大規模な機動演習を成功させました。1936年には、トゥハチェフスキーの主導の下で編纂された『赤軍野外教令』が発布され、縦深戦略理論は赤軍の正式な戦闘教義として確立されました。トゥハチェフスキー自身は後に大粛清により処刑されますが、その理論は教令を通じて後世に引き継がれました。第二次世界大戦中の独ソ戦では、赤軍はこの縦深戦略理論に基づく大規模攻勢を展開し、特に1944年のバグラチオン作戦はその典型例かつ集大成と評価されています。

第二次世界大戦後も、縦深戦略の思想はソ連軍の陸上戦闘教義の中心に据えられました。核戦争の可能性を視野に入れた理論の発展もなされ、戦術核兵器の使用も想定されました。目標とする縦深突破距離は300～500kmにも達することが目標とされ、これを実現するために、パイプライン敷設などの手段で兵站能力を高める「推進補給方式」が採用されました。1980年代には、膨大な機甲部隊を基幹としつつ、空中機動部隊や特殊部隊なども連携させる「作戦機動グループ（Operational Maneuver Group, OMG）」という概念に結実します。これは、第一梯団による迅速な突破でNATO軍に戦術核兵器の使用を決断させる時間を与えず、続く第二梯団が深く突入し、さらに予備部隊や空中機動部隊が連携するという、縦深戦略理論の現代的な具現化でした。

ソ連崩壊後も、ロシア連邦軍に縦深戦略理論の思想と、それを支える装備体系の一部が受け継がれていると考えられています。

戦術的要領

縦深攻撃の戦術的な特徴は、まず非常に広い正面に対して同時に攻撃を開始すること、そして目標とする突破の深さ（縦深）が100km、場合によっては数百kmにも及ぶという点にあります。これを実現するには、敵に対して圧倒的な戦力を準備し、あらかじめ定められた縦長の隊形を維持しながら攻撃を続ける必要があります。

攻撃部隊は通常、敵の第一線に突破口を切り開く役割を担う「第一梯団」と、その突破口から波状的に攻撃を継続し、敵の縦深深くへ進攻する「第二梯団」に分けられます。各梯団を構成する個々の部隊には、それぞれ到達すべき目標地点が明確に指定され、たとえ大きな損害を被ったとしても、その目標地点まで前進することが求められます。ある部隊が損耗しても、後方から次々と新しい部隊が投入され、先行部隊を追い越してさらに先の目標へ進出することで、連続的で途切れることのない攻撃が維持されます。広い攻撃正面でこのような高密度の攻撃を高速で展開することにより、敵軍が適切に対応できる能力を超過させることが狙いです。

また、敵軍が予備部隊を投入して反撃することを阻止するため、第一線陣地だけでなく、敵の後方地域全体に対して、長距離火砲や航空機による同時的な攻撃が加えられます。

縦深攻撃の最終的な目的は、敵部隊を広範囲に包囲し、殲滅することに置かれるのが基本です。この点は、敵の防御線を迂回して特定の戦略目標地点を奪取したり破壊したりすることを主眼とする「電撃戦」のような他の機甲戦理論とは異なります。縦深攻撃では、敵の包囲・殲滅を確実にするために、空挺部隊を用いて敵の退路を遮断したり、十分な予備部隊を投入して追撃戦を行ったりする戦法が用いられます。

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