纁

纁（そひ/そび）

纁（そひ、もしくはそび）とは、薄い赤色のことを指す古代日本の色彩用語です。現代の感覚では、淡い紅、もしくはオレンジがかった赤を想像すると良いでしょう。

この言葉は、日本の歴史、特に律令制時代の衣装に関する記述の中に頻繁に登場します。例えば、『養老律令』の衣服令では、纁が公式な色彩として定義されており、『令義解』や『令集解』といった注釈書には、その具体的な染め方や色合いに関する記述が見られます。これらの注釈書によると、纁は茜（アカネ）という植物の根から採れる染料を用いて染め上げられた色であり、その染色回数は3回とされています。「三染絳（さんせんこう）」や「浅絳（せんこう）」といった表現からも、茜染めの薄い色合いであることが分かります。絳（こう）自体が茜で染めることを意味する言葉であることから、纁は薄い茜色だと推測できます。

纁は、単なる色彩用語としてだけではなく、身分や地位を表す象徴的な意味合いも持っていました。『養老律令』をはじめとする当時の法令では、五位以上の官人の衣装に纁が用いられることが規定されていました。さらに、『延喜式』の記述からは、孫王（皇族の一員）やそれ以下の諸王の衣装にも纁が使われていたことが分かります。このように、纁は特定の身分の人々だけが着用を許される特別な色であり、彼らの地位や権威を示す重要な要素の一つであったと考えられます。

纁に関する情報は、歴史書や文献の中に断片的にしか残されていませんが、それらの情報を丁寧に分析することで、古代日本の社会構造や文化の一端を垣間見ることができます。例えば、纁の染色工程や、それが用いられた衣装の種類、そして着用を許された身分などを詳しく検討することで、当時の社会階層や権力構造、さらにはファッションや美意識までを推測することができます。

本稿では、主に『養老律令』、『令義解』、『令集解』、『延喜式』といった文献を基に、纁の色合い、染め方、そして当時の社会における役割について考察しました。これらの文献に加え、高木豊氏による『平安時代史事典』所収の「纁」の項、および北村哲郎氏による『国史大辞典』所収の「纁」の項も参照することで、より詳細な情報を得ることができました。これらの研究成果を踏まえることで、纁という色彩を通して、古代日本の政治、社会、文化についてより深く理解することができるでしょう。今後の研究では、より多くの文献資料の発掘や分析を通して、纁に関する更なる知見が得られることが期待されます。

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