纏

纏（まとい）とは

江戸時代、町火消しの各組が用いた旗印の一つである「纏（まとい）」は、火消しにとって重要な象徴でした。この道具は火事場での目印としても機能し、消火活動に従事する者たちの士気を鼓舞する役割を果たしました。さまざまな意匠が施され、上部に組を示す特徴的な部分が設けられ、下部は木の棒でできています。加えて、馬簾（ばれん）と呼ばれる紙や革製の房飾りがぶら下がっており、振り上げたり回転させたりすると、まるで踊るかのように揺れ動きます。

纏の構造と重さ

纏の重さは15〜20キログラムと非常にあり、手に持って活用するには相当な腕力が必要です。現場では「纏持ち」と呼ばれる特に力強く、威勢のある者がその任に当てられました。火事が発生すると、纏持ちは風下の屋根に上がり、纏を振りかざして消火活動の目印とし、仲間の士気を高めました。もしもその際に纏が燃えてしまった場合、纏持ちも一緒に焼けてしまうため、「纏を焼くな」と心の中で決意し、全力を注いで戦ったのです。

纏の保存と地域の伝承

2000年8月現在、社団法人江戸消防記念会には88本の纏が保存されていますが、江戸以外の地域でも、纏を用いた火消しが存在していました。例えば、石川県金沢市には「加賀纏」と呼ばれる、地元の金箔貼りの伝統工芸を特徴とする纏があります。現在、この地域のすべての消防団がこの伝統的な道具を保持しており、現役の職人も活動をしています。さらには、外部からの修理依頼も受け付けています。

纏の歴史

纏の起源は、1658年に江戸で設立された定火消しにさかのぼります。江戸の大半を焼失した明暦の大火の後、町の人々が集まった組で消火活動を行うこととなり、臥煙と呼ばれる指揮系統も整備されました。この際に用いられた馬印が、纏の始まりとされています。1720年には、大岡越前守が町火消に纏を持たせ、士気向上を図りました。この時の纏は幟形式のもので、いろは48本と本所・深川の16本を合わせて合計64本が用意されていました。

さらに1872年になると、町火消が消防組に改名され、その際からすべての纏には馬簾に黒線が入るようになりました。このように、纏はただの道具ではなく、町火消の士気や地域の伝統を象徴する重要な存在となっています。

結び

纏はその重さや形状だけでなく、歴史的背景や地域における意義からも高い価値を持っています。現代においても後継者による伝承活動や、地域の消防団のシンボルとして存在し続けています。江戸時代の文化や火消しの精神を今に伝える貴重な文化財として、これからも大切にされるべき存在です。

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