羅星漢
羅星漢（ロー・シンハン）は、1935年にミャンマー・シャン州のコーカン地域、東山区大竹箐村の貧しい家庭に生まれました。コーカン系の華人です。若い頃は、アヘン密売で得た資金で放蕩な生活を送っていましたが、警察署長を務める兄の庇護の下、罪を問われることはありませんでした。
1949年、コーカンの土司である楊家が運営する軍学校に進学。優秀ではなかったものの、国民党軍を駆逐する作戦などで軍人としての頭角を現しました。1959年に土司制度が廃止された後、楊金秀（オリーブ・ヤン）が率いる民兵組織に加わり、幹部に昇進します。当時の関係者は、彼が楊金秀に献身的に仕えていた様子を語っています。しかし、1963年10月に楊金秀が政府によって逮捕された際、羅星漢もまた部下とともに拘束されました。
釈放後、羅星漢はネ・ウィン政権が導入したカクウェイェー（KKY）制度の下で民兵組織を再編成しました。この制度は、反政府勢力との戦闘を条件に、政府管理下にある道路や町でのアヘン輸送権を認めるというものでした。政府は、麻薬取引でKKYが経済的に自立し、ビルマ共産党（CPB）などの反乱軍と戦うことを期待していたのです。羅星漢は逮捕時に押収されたアヘンを返還される代わりにKKYを結成しましたが、後にミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）を創設する彭家声・彭家富兄弟とはこの時、袂を分かつことになります。
KKY司令官となった羅星漢は、アヘン密売で莫大な富を築きました。例えば、彼はアヘンを1ヴィス（約1.6kg）あたり450チャットで購入し、それがラーショーに到着する頃には1,500チャットに値上がりしました。さらに、2,500頭から3,000頭ものラバの隊商を組織し、泰緬国境のタチレクまで大量の麻薬を運びました。この隊商には、料金を支払えば他の麻薬商人や運び屋も加わることが許されました。タチレクでは、アヘンは1ヴィスあたり3,500～4,000チャットで取引され、彼はその利益の一部をタイの闇市場で武器や弾薬の購入に充て、残りを金や消費財に投資し、これらをシャン州で販売することで二重に利益を得ていました。彼はクン・サと同様に、国民党の諜報員としても活動していたとされます。
彼は自らの麻薬哲学について語っており、「西洋では犯罪とされるヘロイン製造も、この地域（コーカンやワ地域）では合法かつ普通のことだ。人々はこれを単なるビジネスの一種と見なし、地元当局にとっては収入源にすぎない。支払いを怠らなければ問題ない」と主張しました。
1968年以降、CPB部隊による攻撃が激化し、羅星漢のKKY民兵組織はコーカンから敗走しました。彼はラーショーに逃れ、国軍の指揮下に入りますが、規律や戦闘能力の低さから、CPBとの戦いでは食事係に回されるほどだったと言われています。
1970年代には、羅星漢はクン・サが投獄されていたこともあり、ゴールデン・トライアングルで最も影響力のある人物の一人となります。アメリカのネルソン・グロスは彼を「東南アジアのヘロイン密売の首謀者」と非難しましたが、実際には彼以上にアヘン取引を行っていた者もいました。
1973年4月、ネ・ウィン政権はKKYの解体を決定しますが、羅星漢は権力を維持しようとします。資金難に苦しんでいたシャン州軍（SSA）と同盟を結び、アヘンの生産地訪問やアヘンの引き渡し、他の隊商への攻撃などを定めた画期的な協定を結びました。これは麻薬密売人がビジネスを放棄し、国際機関と協力するという内容でしたが、この協定はタイ国内の麻薬利権に深く関わる人々の収入を脅かすものでした。
同年7月、協定を携えた関係者がタイのアメリカ大使館へ向かった直後、羅星漢はタイ北西部でタイ王国軍のヘリコプターにより拘束され、ミャンマーへ送還されます。ヤンゴンでの裁判で、彼は国家反逆罪（麻薬密売は当時国軍も容認していたため罪に問われなかった）で死刑を宣告されましたが、後に無期懲役に減刑されました。
1980年5月、羅星漢は恩赦により釈放されます。政府からの資金援助を受け、KKYと同様のピッドゥーシッ制度の下、サルウィン村に新たな民兵組織を設立しました。当初はバス会社や商店などを経営する小規模な地方企業家でしたが、芒市の対岸にヘロイン精製所を設け、「チャイナ・ホワイト」と呼ばれるヘロイン生産も再開しました。しかし、この時点ではかつての勢力には及ばなかったようです。
転機が訪れたのは1989年、CPBが内部分裂によって崩壊した時です。当時の軍情報部長キンニュンは、羅星漢をCPB残党との停戦交渉の仲介役として起用しました。この貢献の見返りとして、羅星漢は麻薬の生産・密売を政府の取り締まりなしで行う許可を得たのです。これにより彼は、コーカン周辺に少なくとも17基以上のヘロイン精製所を建設し、約15年前にクン・サに譲った「麻薬の帝国」を再建しました。羅星漢自身は、CPBとの和平交渉を軍政に提案したのは自分だったと語っています。
1992年6月、羅星漢はアジア・ワールド社を設立しました。この会社は、輸出入、輸送、建設、ホテル、スーパーマーケットなど多岐にわたる事業を展開し、ヤンゴンの港湾開発、主要国道の整備、中国＝ミャンマー・パイプライン、チャウピュー深海港、さらにはミッソンダムやタサン水力発電所といった大規模インフラプロジェクトに深く関与しました。これらの事業には中国系企業が参与し、株主には麻薬密売と関係の深い人物も含まれており、麻薬密売のフロント企業であるという指摘もあります。
羅星漢は国軍幹部とも緊密な関係を築き、当時の最高指導者タンシュエの娘の結婚式に関わったり、テインセイン大統領の初訪中に同行したりしました。しかし、これらの繋がりから、2008年には米国政府により、羅星漢とその一族経営企業が経済制裁の対象となりました。
羅星漢は2013年7月6日、ヤンゴンで死去しました。事業は息子の羅秉忠（スティーブン・ロー）が引き継ぎ、建設・エネルギー分野で大きな成功を収めています。羅星漢の生涯は、ミャンマーの激動の歴史、特にゴールデン・トライアングルにおける麻薬取引と軍事政権、そして経済開発が複雑に絡み合った様相を如実に示しています。
（注：本記述は提供された情報に基づき作成しており、歴史的事実の解釈や評価を含むものではありません。）
1949年、コーカンの土司である楊家が運営する軍学校に進学。優秀ではなかったものの、国民党軍を駆逐する作戦などで軍人としての頭角を現しました。1959年に土司制度が廃止された後、楊金秀（オリーブ・ヤン）が率いる民兵組織に加わり、幹部に昇進します。当時の関係者は、彼が楊金秀に献身的に仕えていた様子を語っています。しかし、1963年10月に楊金秀が政府によって逮捕された際、羅星漢もまた部下とともに拘束されました。
釈放後、羅星漢はネ・ウィン政権が導入したカクウェイェー（KKY）制度の下で民兵組織を再編成しました。この制度は、反政府勢力との戦闘を条件に、政府管理下にある道路や町でのアヘン輸送権を認めるというものでした。政府は、麻薬取引でKKYが経済的に自立し、ビルマ共産党（CPB）などの反乱軍と戦うことを期待していたのです。羅星漢は逮捕時に押収されたアヘンを返還される代わりにKKYを結成しましたが、後にミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）を創設する彭家声・彭家富兄弟とはこの時、袂を分かつことになります。
KKY司令官となった羅星漢は、アヘン密売で莫大な富を築きました。例えば、彼はアヘンを1ヴィス（約1.6kg）あたり450チャットで購入し、それがラーショーに到着する頃には1,500チャットに値上がりしました。さらに、2,500頭から3,000頭ものラバの隊商を組織し、泰緬国境のタチレクまで大量の麻薬を運びました。この隊商には、料金を支払えば他の麻薬商人や運び屋も加わることが許されました。タチレクでは、アヘンは1ヴィスあたり3,500～4,000チャットで取引され、彼はその利益の一部をタイの闇市場で武器や弾薬の購入に充て、残りを金や消費財に投資し、これらをシャン州で販売することで二重に利益を得ていました。彼はクン・サと同様に、国民党の諜報員としても活動していたとされます。
彼は自らの麻薬哲学について語っており、「西洋では犯罪とされるヘロイン製造も、この地域（コーカンやワ地域）では合法かつ普通のことだ。人々はこれを単なるビジネスの一種と見なし、地元当局にとっては収入源にすぎない。支払いを怠らなければ問題ない」と主張しました。
1968年以降、CPB部隊による攻撃が激化し、羅星漢のKKY民兵組織はコーカンから敗走しました。彼はラーショーに逃れ、国軍の指揮下に入りますが、規律や戦闘能力の低さから、CPBとの戦いでは食事係に回されるほどだったと言われています。
1970年代には、羅星漢はクン・サが投獄されていたこともあり、ゴールデン・トライアングルで最も影響力のある人物の一人となります。アメリカのネルソン・グロスは彼を「東南アジアのヘロイン密売の首謀者」と非難しましたが、実際には彼以上にアヘン取引を行っていた者もいました。
1973年4月、ネ・ウィン政権はKKYの解体を決定しますが、羅星漢は権力を維持しようとします。資金難に苦しんでいたシャン州軍（SSA）と同盟を結び、アヘンの生産地訪問やアヘンの引き渡し、他の隊商への攻撃などを定めた画期的な協定を結びました。これは麻薬密売人がビジネスを放棄し、国際機関と協力するという内容でしたが、この協定はタイ国内の麻薬利権に深く関わる人々の収入を脅かすものでした。
同年7月、協定を携えた関係者がタイのアメリカ大使館へ向かった直後、羅星漢はタイ北西部でタイ王国軍のヘリコプターにより拘束され、ミャンマーへ送還されます。ヤンゴンでの裁判で、彼は国家反逆罪（麻薬密売は当時国軍も容認していたため罪に問われなかった）で死刑を宣告されましたが、後に無期懲役に減刑されました。
1980年5月、羅星漢は恩赦により釈放されます。政府からの資金援助を受け、KKYと同様のピッドゥーシッ制度の下、サルウィン村に新たな民兵組織を設立しました。当初はバス会社や商店などを経営する小規模な地方企業家でしたが、芒市の対岸にヘロイン精製所を設け、「チャイナ・ホワイト」と呼ばれるヘロイン生産も再開しました。しかし、この時点ではかつての勢力には及ばなかったようです。
転機が訪れたのは1989年、CPBが内部分裂によって崩壊した時です。当時の軍情報部長キンニュンは、羅星漢をCPB残党との停戦交渉の仲介役として起用しました。この貢献の見返りとして、羅星漢は麻薬の生産・密売を政府の取り締まりなしで行う許可を得たのです。これにより彼は、コーカン周辺に少なくとも17基以上のヘロイン精製所を建設し、約15年前にクン・サに譲った「麻薬の帝国」を再建しました。羅星漢自身は、CPBとの和平交渉を軍政に提案したのは自分だったと語っています。
1992年6月、羅星漢はアジア・ワールド社を設立しました。この会社は、輸出入、輸送、建設、ホテル、スーパーマーケットなど多岐にわたる事業を展開し、ヤンゴンの港湾開発、主要国道の整備、中国＝ミャンマー・パイプライン、チャウピュー深海港、さらにはミッソンダムやタサン水力発電所といった大規模インフラプロジェクトに深く関与しました。これらの事業には中国系企業が参与し、株主には麻薬密売と関係の深い人物も含まれており、麻薬密売のフロント企業であるという指摘もあります。
羅星漢は国軍幹部とも緊密な関係を築き、当時の最高指導者タンシュエの娘の結婚式に関わったり、テインセイン大統領の初訪中に同行したりしました。しかし、これらの繋がりから、2008年には米国政府により、羅星漢とその一族経営企業が経済制裁の対象となりました。
羅星漢は2013年7月6日、ヤンゴンで死去しました。事業は息子の羅秉忠（スティーブン・ロー）が引き継ぎ、建設・エネルギー分野で大きな成功を収めています。羅星漢の生涯は、ミャンマーの激動の歴史、特にゴールデン・トライアングルにおける麻薬取引と軍事政権、そして経済開発が複雑に絡み合った様相を如実に示しています。
（注：本記述は提供された情報に基づき作成しており、歴史的事実の解釈や評価を含むものではありません。）
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