楊金秀

楊金秀

楊金秀（よう きんしゅう、1927年6月24日 - 2017年7月13日）は、ミャンマー連邦共和国、特にコーカン地域で大きな影響力を持った軍閥の指導者として知られる人物です。彼女はコーカンの伝統的な首長である楊振材の妹にあたり、『オリーブ・ヤン（Olive Yang）』という名でも広く知られています。

生涯

生い立ち

金秀は1927年6月24日、イギリス統治下のビルマ、シャン連合州コーカンの炸地林に、10人兄弟の一人として生まれました。父は当時のコーカン土司（世襲の首長）であった楊文炳、母は中国雲南省臨滄市鎮康県の有力な家系の出身でした。幼い頃から強い個性と負けん気を持ち合わせていたといわれ、親族によれば、伝統的な性別の役割に反発し、纏足を拒み、男性的な装いを好んだと伝えられています。4歳頃から銃の扱いを覚え、学校に銃を持ち込んだことすらあったといわれています。教育はラーショーにある守護天使女子修道院付属学校で受けました。

コーカン支配者として

1942年3月、日本軍がコーカンに侵攻すると、父である楊文炳はコーカン自衛隊を組織しましたが、わずか1ヶ月ほどの激戦の末、自衛隊は雲南省保山への撤退を強いられ、楊一族もインドへ逃れました。その後、中国遠征軍の勝利とイギリスの後押しにより、楊一族はコーカンの支配者の地位を取り戻しました。1945年から1959年までの14年間は、金秀の兄である楊振材が政務を執り行いました。金秀はこの頃から、父や兄からの寵愛を背景に政治に関与するようになります。

1940年代から1950年代にかけて、金秀は教育事業にも力を入れ、学校を運営して若い世代に無償で教育の機会を与えたほか、中華民国国軍の将官を招いて軍事教育の訓練班を設けました。後の「果敢王」彭家声や、後に「麻薬王」と呼ばれる羅星漢、そしてコーカン第1特区の事務総長となる劉国璽といった面々が、この学校で学んでいます。

1950年代から1960年代半ばにかけて、金秀はコーカン人民防衛隊の司令官を務めました。この時期、彼女はアヘンや金の密輸において重要な役割を果たしました。ビルマ政府は、コーカンに流入した中華民国国軍の残党（泰緬孤軍）を排除する目的で、金秀と連携します。1953年にはこの試みは成功しましたが、金秀はミャンマー国内に留まった国民党軍残党と協力関係を築き、悪名高い「黄金の三角地帯」におけるアヘン貿易ルートを確立しました。冷戦初期、ビルマにおける共産主義の拡大を抑えるため、アメリカ中央情報局（CIA）は金秀の軍閥に資金援助を行っていたとされています。

1953年、金秀はタイ国境からビルマへ戻る際に当局の監視下に入り、国民党兵士の不法入国を支援した疑いで、副官の羅星漢と共にマンダレーの刑務所に5年間収監されました。1959年、コーカンにおける楊一族の世襲統治は終わりを迎え、権力は地方議会へと移譲されます。しかし、金秀は国民党の後ろ盾を得て、その後もコーカンにおける事実上の支配者として権勢を維持しました。ビルマ政府がコーカンへの統治を強化しようとする中、1962年には当時ラングーンで議員を務めていた兄の振声と共に逮捕され、インセイン刑務所に6年間服役した後、ヤンゴンの邸宅で余生を送りました。

晩年

1980年代後半には、当時の政府高官キン・ニュンによって登用され、ミャンマー政府と反政府勢力との停戦交渉の仲介役を務めるなど、政治的な影響力を保ち続けました。晩年には僧侶になったとも伝えられています。2003年に持病が悪化し、コーカンに戻りました。そして2017年7月13日、ムセの病院でその生涯を閉じました。

私生活

1948年、金秀はタマイン領主である段一族のサオ・ウェンと結婚しました。妹のジュディ・ヤンによると、金秀は結婚初夜に尿瓶を投げつけたとされ、夫は彼女を恐れていたといいます。1950年頃までに、息子である吉卜（Jíbǔ）をもうけました。息子の名は、金秀が戦時中に昆明で見たアメリカ製のジープにちなんで付けられたといわれています。息子の誕生後、二人は別居しました。

また、ビルマの著名な歌手・女優であるワーワーウィンシュエや、ミス・ビルマでありカレン民族解放軍の兵士でもあったルイザ・ベンソン・クレイグといった女性たちと関係を持っていたことが知られています。金秀は一般的にはバイセクシャルであったと考えられていますが、男性への性的指向があったかどうかは定かではありません。晩年、金秀は自らを「オリーブおじさん（Uncle Olive）」と呼ばせることを好んでおり、一部の研究者は彼女の性自認が男性であった可能性を示唆しています。

もう一度検索