美唄炭鉱

美唄炭鉱は、北海道美唄市とその周辺地域にかつて栄えた炭鉱地帯の総称です。日本の近代化を支えた重要なエネルギー供給地の一つであり、数多くの中小規模炭鉱が存在した中で、特に規模が大きく知られているのは、美唄市常盤台地区に立地した三菱鉱業運営の三菱美唄炭鉱と、美唄市南美唄地区の三井鉱山運営による三井美唄炭鉱です。長い歴史の中で多くの変遷をたどりましたが、現在も一部の鉱区では露天掘りによる石炭の採掘が続けられています。

三菱美唄炭鉱

この炭鉱の歴史は、1913年（大正2年）に独立系の飯田炭鉱として開発が始まったことに遡ります。しかし、1915年には三菱によって買収され、三菱美唄炭鉱として新たなスタートを切りました。採炭量を順調に増やしながら規模を拡大し、石炭輸送の効率化のために旧美唄軽便鉄道を買収して三菱鉱業美唄鉄道線としました。これにより、大夕張炭鉱と並ぶ三菱の主要な鉱山の一つとして、その名を知られるようになりました。設備の近代化も進められ、1923年にはシンボルともいえる立坑櫓が建設されています。

しかし、炭鉱操業は常に危険と隣り合わせでした。1941年（昭和16年）3月18日には、通洞坑口から約1600mの地点で落盤事故が発生し、これを誘発源とする大規模なガス爆発が起きました。爆発発生当時の坑内には374人の作業員が入坑しており、この痛ましい事故により、実に177人もの尊い命が失われ、行方不明となりました。さらに1944年（昭和19年）5月にもガス爆発事故が発生し、この時も多数の死傷者および行方不明者を出しています。こうした悲劇を受け、昭和天皇と香淳皇后より北海道庁へ御下賜金が贈られました。

また、厳しい労働環境などを背景に労働争議も発生しています。1946年 2月8日に始まった三菱美唄炭鉱争議では、同年2月17日には鉱業所の幹部を一時的に拘束して団体交渉が行われ、これは後に「人民裁判事件」として知られることとなりました。

戦時中の最盛期にあたる1944年には、年間180万トンもの膨大な石炭を採掘しましたが、エネルギー源の中心が石油へと移行するなど社会情勢が変化する中で、1973年に閉山しました。炭鉱の発展と共に人口が増加し、かつて都市としての規模を誇った常盤台地区は、閉山後は多くの住民が離れ、現在は公園などが整備されつつも、かつての賑わいは失われ無人地帯に近い状態となっています。

三井美唄炭鉱

三井美唄炭鉱は、中小規模の炭鉱を統合・買収する形で、1928年に三井鉱山によって設立されました。石炭の効率的な輸送のため、美唄駅から専用鉄道を敷設し、石炭を運び出していました。この鉄道は後に国鉄函館本線の南美唄支線として利用されることになります。

一方、1910年に開鉱した徳田鉱山は、1941年には石炭が枯渇し閉山しましたが、近隣の三井美唄炭鉱との一体的な開発の可能性が見込まれたことから、三井鉱山がその権利を取得しました（三井新美唄炭鉱）。その後、1951年の鉱業所再編を経て、三井美唄炭鉱の第二鉱として位置づけられることとなりました。

三井美唄炭鉱は、1963年に閉山しました。三井炭鉱も大規模な炭鉱ではありましたが、同市内にあった三菱炭鉱と比較すると採炭量は及びませんでした。当時の石炭産業はエネルギー革命の進行により斜陽化が進み、政府主導で効率化のための再編（スクラップアンドビルド政策）が進められていました。三井美唄炭鉱は新たな開発投資の対象（ビルド鉱）とはならず、比較的早期の閉山を選択せざるを得なかったとされています。三菱の常盤台地区よりも市街地（国道12号近隣）に近い南美唄地区に位置していたことから、閉山後も炭鉱時代の住宅や関連施設などが比較的多く現存しています。

その後の変遷と現在の採掘

1963年に閉山した三井美唄炭鉱の一部事業は、三美炭鉱として引き継がれましたが、こちらもエネルギー情勢の変化に伴い、1973年にはその歴史に幕を下ろしました。

しかし、その後の海外資源価格の高騰などを背景に、三美炭鉱の鉱区の一部では石炭採掘が再開されました。現在は日本コークス工業のグループ会社である三美鉱業株式会社が、露天掘りによる採炭を行っています。

また、美唄市盤の沢地区では、三菱マテリアル株式会社の子会社である北菱産業埠頭株式会社石炭部門が炭鉱を運営しています。この炭鉱も現在まで露天掘りにより稼働を続けています。かつては年間3万トン程度の生産量でしたが、2007年には原油価格の上昇などを背景に、北海道電力や製紙会社などからの引き合いが増加し、年間9万トン程度の生産量が見込まれるなど、需要に応じた採炭が続けられています。

美唄炭鉱は、大規模な地下採掘が終焉を迎えた後も、一部では露天掘りという形でその歴史を繋いでおり、かつての炭鉱遺構と共に、この地域の重要な産業遺産としてその存在を留めています。

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