群盗

シラーの処女作『群盗』

フリードリヒ・フォン・シラーが初めて劇作の世界に挑んだのが、全五幕の戯曲『群盗』（独：Die Räuber）です。1781年に匿名で出版され、翌1782年に初演されました。ドイツ文学史上の「シュトゥルム・ウント・ドランク（疾風怒濤）」運動を代表する作品とされ、ゲーテの同時代の作品群と並び称されます。

誕生と熱狂の渦

シラーは処女詩集を発表後、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』の影響を受け、本作の執筆に取りかかりました。完成後、匿名での自費出版を経て、1782年1月17日にマンハイム国民劇場で初演された際、観客は熱狂をもって迎え、失神者が出るほどの騒ぎとなりました。この成功でシラーは一躍有名になりますが、劇の持つ反体制的な側面は、彼が後に故郷を離れる一因ともなります。

思想的背景と重層的な解釈

『群盗』には、シラーの初期作品に顕著な強い宗教性が認められます。構想時には『ルカによる福音書』に基づく「愛と許し」（放蕩息子）と、「裁きと報復」（群盗）というテーマが並存し、やがて後者が物語の中心となりました。「群盗」のテーマは、しばしば社会的な不正義への抗議として解釈され、研究者の中には主人公カールの行動に「社会革命的」な側面を見る向きもありますが、一方で「神的秩序」や「神の正義」といった宗教的な観点からの解釈も重要視されています。

また、本作には、裁きを原理とする集団の本質に関わる重要な対話部分が、初版印刷時にシラー自身によって削除されていたという経緯があります。この削除部分は後に発見され、当時のユダヤ教メシアニズムとの関連が指摘されるなど、作品の奥行きを示しています。

破滅へ向かう兄弟の物語

舞台は18世紀中葉のドイツ。貴族モール伯爵の嫡男カールは、過去の行いを悔い父に謝罪の手紙を送ります。しかし、冷酷な弟フランツはこれを隠し、父からの勘当を告げる偽の手紙をカールに送り絶望させます。カールは仲間に唆され、盗賊団を結成し頭領となります。彼らは義賊的な活動も行いますが、悪事も重ねます。

フランツはさらに、カールの恋敵だった人物と共謀し、父にカールの死を偽報し、父を塔に閉じ込めます。

やがて変装して帰郷したカールは、恋人アマーリエの変わらぬ愛を知り、同時に召使いからフランツの悪行全てを聞き知ります。フランツは盗賊団が屋敷を包囲したことを知り、自害します。

救出された父はカールの生存を喜びますが、彼が盗賊の頭領であった事実に衝撃を受け息絶えます。そして、カールとの未来がないことを悟ったアマーリエは、カール自身の手で命を絶つことを選びます。愛する者を殺めたカールは、盗賊団を離れ、自首を決意します。

日本における受容

日本では、1936年に劇作家・久保栄の翻訳・演出により新協劇団で初演されました。久保栄は本作を歌舞伎翻案した『吉野の盗賊』（1933年、1955年映画化）も手掛けています。また、三好十郎の戯曲『戦国群盗伝』（1959年映画化）も本作に影響を受けたとされます。近年も、2018年の新たな舞台や、2019年の宝塚歌劇団による上演など、繰り返し上演されています。

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