群衆 (1928年の映画)

映画『群衆』の魅力

1928年に制作された映画『群衆』は、著名な監督キング・ヴィダーによるサイレントモノクロ映像作品です。この映画は、当時のアメリカ映画の中でも特異な風格を持ち、社会のリアリズムを描くことに挑みました。主に平凡なアメリカ市民の日常を映し出し、彼らの人生が環境や周囲の状況にどのように影響されるのかを示しています。

違った視点の映画

一般にハリウッド映画は、観客に夢のような世界を提供することを重視していました。しかし、ヴィダーはその潮流に逆らい、異なる視点から物語を描きたいと考えました。このアプローチに共鳴したのが、当時のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー (MGM) の若手プロデューサー、アーヴィング・タルバーグでした。彼との共同作業がこの作品を生む大きな要因となりました。

主人公とキャスト

この映画の中心となるのは、サラリーマンのジョン・シムズとその家族です。ジョン役には、撮影所での偶然の出会いから起用されたジェームズ・マーレーが選ばれました。彼の妻メアリーには、ヴィダーの当時の妻であるエレノア・ボードマンが演じています。二人のキャラクターは、家庭生活の平穏を求める一市民の象徴であり、その苦悩や喜びを通じて普遍的なテーマを表現しています。

撮影手法

特筆すべきは、ニューヨークの屋外シーンが多く、隠し撮り的に撮影されたことです。これは、当時の映画制作の常識から外れた試みであり、本作にリアリティを与える要素となっています。今までのサイレント映画には見られないような斬新なアプローチで、観客に新たな経験を提供しました。

物語の展開とラスト

映画のクライマックスには、ジョンとメアリーが明るい未来を夢見る場面がありますが、ヴィダーはこのエンディングに一定の問題を抱えていました。MGMの重役であるルイス・B・メイヤーは、観客がハッピーエンドを期待するという考えから、別の結末を追加で撮影させます。その結果、劇場によって異なるエンディングが上映されることとなり、観客にとってどちらを選ぶかは各劇場の裁量に委ねられました。このような複数の結末が存在することは、映画の内部的な緊張を生み出す要因ともなりました。

次作『麦秋』への影響

ヴィダーは、次の作品『麦秋』でも同じくジョンとメアリーという名前の夫妻を主人公に設定しました。映画のテーマは、世界大恐慌時代における農場の経営に変わり、彼らの苦闘が主題となります。このように『群衆』は、ヴィダーのキャリアにおいて重要な位置を占め、彼の作品のスタイルやテーマを探求する上で大きな影響を与えました。

総括

『群衆』は、映画史において重要な作品であり、当時の社会状況や人々の日常生活をリアルに描き出しています。この映画は、スティーヴン・ジェイ・シュナイダーの著書『死ぬまでに観たい映画1001本』にも掲載されており、2024年にはパブリックドメインとなる予定です。時代を超えて愛され続ける本作は、映画ファンにとって見逃せない一編であると言えるでしょう。

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