義務教育教科書費国庫負担請求事件

義務教育教科書費国庫負担請求事件

概要

義務教育教科書費国庫負担請求事件は、日本国憲法第26条に基づく義務教育の無償化の範囲について争われた裁判です。この事件は東京都内の公立小学校に通う2年生の子どもを持つ保護者が、教科書代金に関して国に対して提起した訴訟から始まりました。保護者は、2年間に総額865円の教科書代を支払った後、憲法第26条が義務教育の無償化を規定していることを知り、教科書代は国が負担すべきであると考えました。

保護者は、義務教育期間中にかかる教科書代金総額5836円の徴収を取り消し、返金を求めて国に訴えを起こしました。1961年11月22日には東京地方裁判所がこの訴えを審理しましたが、教科書代金の徴収行為取り消しについては却下されました。裁判所は、憲法第26条において国に義務教育の無償化を実現するための担保が定められているものの、保護者が国にその財政的負担を求める具体的な権利は存在しないとの判断を下しました。

その後、原告は865円の返金と教科書代金徴収の不作為を求めて控訴しましたが、1962年12月19日に東京高等裁判所は控訴を棄却しました。高裁も、憲法第26条が直接示しているのは授業料の不徴収のみに限り、他の教育費用については立法による決定を待つべきであるとの判断を示しました。

原告は、この判断に納得できず、最高裁判所に上告しました。1964年2月26日、最高裁は憲法第26条に関して「保護者には子女を教育する義務があり、義務教育に必要な費用は当然に国が負担しなければならないとは解釈できない」とします。判決は、無償化規定が授業料の不徴収を意味しているにすぎず、教科書代には適用されないというものでした。これにより、最高裁も原告の上告を棄却しました。

その後の動き

本訴訟の進行中に、国会では義務教育に関する法律が制定されました。1962年には「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」が、1963年には「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」が成立し、これにより国が義務教育教科書の無償化を実施することとなりました。

この事件は、教育の無償化についての法律解釈や国の役割についての重要な議論を引き起こしました。憲法第26条の下での義務教育がどの程度まで国の負担になるのかという問題は、今もなお教育政策の中で考慮されており、かつての訴訟の影響が見られます。法的な権利と教育の資金負担についての判断は、今後も継続的に改訂される可能性がある重要な事項であると言えるでしょう。

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