羽田奉行

羽田奉行：江戸の海の守り人

羽田奉行は、江戸幕府が設置した遠国奉行の一つです。現在の東京都大田区羽田にあたる武蔵国荏原郡羽田村に置かれ、江戸近郊の沿岸警備と、外国船の監視・対応という重要な役割を担っていました。

羽田奉行の設置と役割

羽田奉行所の設置時期は正確には分かっていませんが、天保の改革における海防強化策の一環として設置されたと考えられています。奉行が執務する仮番所、沿岸防衛のための台場、火薬などの保管庫である仮焔硝蔵（かりえんしょうぐら）から構成されていました。

その任務は、江戸湾への侵入を試みる外国船の警戒や、沿岸警備、そしてそれらに関連する諸問題への対応でした。江戸の安全を守るため、重要な役割を担っていたと言えるでしょう。

短命に終わった羽田奉行

1843年（天保14年）12月、西丸小姓組の田中勝行が初代羽田奉行に任命され、組織は本格的に始動しました。翌年には、御徒の窪田鎮勝が支配組頭に任じられるなど、組織体制も整えられていきます。しかし、この組織は長くは続きませんでした。

天保14年閏9月、老中・水野忠邦が罷免された影響を受け、わずか1年数ヶ月で、1845年（天保15年）5月、羽田御備場の廃止が決定されました。田中勝行は浦賀奉行に、窪田鎮勝は富士見宝蔵番へとそれぞれ異動し、他の職員もそれぞれ別の役職へと配置転換されました。10月には、鉄砲方に引き渡され、羽田御備場は正式に廃止されたのです。

羽田奉行所の組織

羽田奉行所の組織は、奉行を頂点に、支配組頭、与力、同心、足軽、水主などから構成されていました。正確な人数は資料によって多少の違いがありますが、奉行1名、支配組頭1名、与力3名、与力勤方6名、与力見習・同見習勤方4名、同心組頭10名、同心48名、足軽15名、水主頭取20名、足留水主40名といった構成であったと推測されます。

奉行の地位は、場所高1000石、役料500俵、引越拝料金200両、役所御備金300両と、幕府において重要な役職であったことが伺えます。また、下田奉行の次席にあたり、芙蓉間詰、布衣という待遇を受けていました。

短い歴史とその後

羽田奉行は、わずか一年ほどの短い期間でその歴史を閉じました。しかし、その存在は、江戸幕府の沿岸警備体制を考える上で、無視できない重要な要素です。短命に終わったものの、設置された背景や組織、そしてその廃止に至る経緯を知ることで、当時の政治状況や社会情勢の一端を垣間見ることができるでしょう。その短い歴史の中で、彼らは江戸湾の安全と平和を守るために尽力したのです。

参考資料

神谷大介「羽田奉行」「羽田奉行支配組頭」「羽田奉行所」（『江戸幕府大事典』（吉川弘文館、2009年） ISBN 978-4-642-01452-6）

関連事項

上知令

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