耐Gスーツ

耐Gスーツ（たいジースーツ）

耐Gスーツは、戦闘機パイロットが高いG（加速度）を受けた際に発生するブラックアウトを軽減するために設計された特殊な衣類です。このスーツは主に下半身をカバーするズボンの形状をしており、パイロットが極端なGフォースにさらされた場合でも、脳に十分な血液が供給されるよう工夫されています。なお、パイロットが体験する別の生理現象、レッドアウトには対応できないことに注意が必要です。

Gの種類とその影響

GにはプラスGとマイナスGがあり、ブラックアウトはプラスGに起因して発生します。具体的には、プラスGの影響で血液が下肢へ移動し、脳への血流が減少することにより、失神状態に至るのです。一方で、レッドアウトはマイナスGによって引き起こされ、血液が頭部に集中することが原因となります。戦闘機においては、プラスGの方が発生しやすく、頻繁に経験されるため、パイロットにとって重要な問題となります。

開発の背景

このスーツの開発は、第一次世界大戦中からの経験に基づき行われました。当時、戦闘機の急激な旋回や宙返りによってパイロットが失神する危険性が懸念されていました。1941年には、トロント大学のウィルバーR.フランクスによって初めて耐Gスーツが開発されました。初期の耐Gスーツは水圧によって脚部を圧迫するものであり、Gがかかっても脳への血流が妨げられないように設計されていました。その後、1944年にはアメリカ陸軍航空隊によって空気圧式のスーツが開発され、太平洋戦争の終わり頃には実戦に使用されるようになりました。

スーツの機構と機能

耐Gスーツは、下半身を締め付けることで脳への血流不足を防ぐ仕組みが考案されています。スーツ自体は浮き輪や救命胴衣に似た構造を持ち、操縦席のコネクタとホースで接続されます。過剰なGがパイロットにかかると、自動的に圧搾空気がスーツ内に送り込まれ、下半身を圧迫します。この技術により、血液の重力による下降を軽減し、パイロットが意識を保てるようサポートできます。最近では、下半身だけでなく、上半身や頭部も圧迫する新型スーツ「コンバットエッジ」が登場し、より一層耐G能力が向上しています。

限界とトレーニング

訓練を受けていない一般の人間は、大体6G程度で失神するとされていますが、訓練を積んだ人ですと、瞬間的にはそれ以上のGに耐えることができるケースがあります。例えば曲技飛行士は、耐Gスーツを使用すれば10Gを超えても操縦を続けることが可能です。しかし、個人差は大きく、特に訓練の有無によってG耐性には違いがあります。たとえば、戦闘機パイロットの油井亀美也は、訓練開始時には3Gでグレイアウトしていたものの、訓練を終えるころには8Gでも問題なく活動できるようになりました。そのため、身体トレーニングで耐G能力を向上させることは実際に行われています。

応用分野

耐Gスーツの技術は、医療分野にも応用されています。例えば「ショックパンツ（MAST）」という装置は、骨盤骨折による出血性ショックの患者に対して、圧迫止血を行いつつ下半身の血液を上半身へ急速に還流させることで、脳や心臓などの重要器官への血流を確保します。ただし、心原性ショックには禁忌となっているため注意が必要です。

このように、耐Gスーツは単なるパイロットのための装備であるだけでなく、他の多くの分野においてもその技術が役立っていることがわかります。

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