耿炳文

耿炳文（こうへいぶん、1334年 - 1403年）は、元末から明初の動乱期に活躍した将軍です。彼の人生は、明朝の創設と初期の権力闘争に深く関わっています。

生涯

耿炳文は、朱元璋とは若い頃からの友人でした。朱元璋が郭子興の軍に加わると、耿炳文もそれに続き、共に戦いました。特に、張士誠との戦いでは、その配下の武将である趙打虎や李福安を破るなど、目覚ましい活躍を見せました。朱元璋が郭子興の軍を引き継ぐと、耿炳文は忠実に彼に仕え、明朝建国の功臣の一人として名を連ねることになります。明朝成立後、その功績を認められ、朱元璋から長興侯に封じられました。

明朝を創設した朱元璋（洪武帝）は、功臣たちを次々と粛清しましたが、耿炳文はなぜか例外として処刑を免れました。洪武帝の治世下では、モンゴル戦や雲南遠征などで功績を重ねています。また、彼の長男である耿璿は、建文帝の嫡姉である江都郡主（後の江都公主）と結婚し、皇帝の一族との繋がりを深めました。

朱元璋の死後、皇太孫であった建文帝が即位すると、高齢となった耿炳文は表舞台から退いていました。しかし、建文元年（1399年）に燕王朱棣（後の永楽帝）が反乱を起こすと（靖難の変）、建文帝は彼を朱棣軍征討の大将軍に任命しました。当時、洪武帝時代の功臣で生き残っている者は耿炳文以外にいなかったため、この人事は妥当なものでした。耿炳文は8月12日に真定に進出し、15日には雄県まで進軍しますが、そこで朱棣軍の夜襲を受け、先鋒部隊が壊滅的な打撃を受けます。しかし、耿炳文は敗軍をまとめ、真定城に立て籠もり徹底抗戦しました。朱棣軍は勢いに乗って攻撃を仕掛けますが、遂に城を落とせず撤退しました。しかし、建文帝はこの初戦の敗北に激怒し、耿炳文を大将軍から解任し、後任に李景隆を任命しました。この情報を知った朱棣軍は、「あの老人が相手なら手強かったが、これで勝ったも同然」と喜んだと伝えられています。責任を取る形で、耿炳文は再び表舞台から姿を消しました。

建文4年（1402年）、靖難の変が終結すると、耿炳文はその時点では罪に問われませんでした。しかし、翌永楽元年（1403年）、永楽帝として即位した朱棣によって過去の罪を蒸し返され、一族と共に処刑されてしまいました。享年70歳でした。

耿炳文の生涯は、明朝初期の激動を象徴するものであり、彼の運命は、時代の流れの中で大きく翻弄されたと言えるでしょう。

参考文献

『明史』巻130 列伝第18
『アジア歴史事典』（平凡社）
* 伴野朗『永楽帝』（徳間書店)

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