耿福

耿福（こう ふく）

耿福（1185年 - 1233年）は、13世紀前半にモンゴル帝国に仕えた漢人世侯の一人です。彼は深州束鹿県（現在の河北省）の出身で、『元史』には立伝されていませんが、『畿輔通志』や『新元史』にその事績が記されています。

生涯

金朝末期の混乱と耿福の台頭

耿福の先祖は代々束鹿県で農業を営んでいました。1211年にチンギス・カンによる金朝侵攻が始まると、金朝の統治は大きく揺らぎます。1214年には首都を南の開封へ遷都しますが、これがモンゴルの再侵攻を招き、黄河以北の地域は事実上見捨てられることになりました。行政機構は崩壊し、盗賊が横行する荒廃した状況の中、束鹿県の住民たちは耿福を指導者として推戴します。

耿福は当初この申し出を固辞しますが、住民たちの強い要請を受け、「弱き者を侮らない」「非義を行わない」などの約束を取り付けた上で、指導者となることを決意しました。耿福の指揮下に入った束鹿県は秩序を取り戻し、外部からの侵略を防ぐことに成功します。

モンゴルへの帰順

1218年、ムカリ率いるモンゴル軍が束鹿を攻略した際、耿福はモンゴルに投降しました。1219年には、武仙が守る冀州攻略の命を受けます。耿福は武力を行使する前に使者を送り投降を促すことを進言し、自らも説得に赴きました。城主は耿福の誠意を疑い、耿福の親族の来訪を要求しますが、耿福の妻の兄である董善が冀州を訪れたことで、城主はついに開城し、冀州はモンゴルの支配下に入りました。

この功績により、耿福はチンギス・カンに謁見し、金織衣や名馬などを下賜され、鎮国上将軍・安定州節度使に任ぜられました。

武仙との戦い

1219年秋、武仙はモンゴル支配下の勢力に対して侵攻を開始し、耿福とも30回以上にわたって戦闘を繰り広げました。耿福は武仙軍の攻撃をことごとく撃退し、その武勇を示します。武仙が「火砲」で束鹿県城を攻撃した際には、耿福が真武殿で祈祷したところ風雨が起こって火を消し止めたという逸話も残っています。

劉仲禄が兵を率いて丘処機を迎えに来た際には、耿福は配下の将兵を鼓舞し、武仙軍を奇襲して大勝利を収めました。この勝利によって耿福の名声は周囲に広まり、周辺の諸郡が次々と耿福の下に帰順したため、漢人世侯を統括する張柔がその功績を報告し、耿福は輔国上将軍に任ぜられました。

死とその後

1233年2月、耿福は病に倒れ、息を引き取りました。臨終の際には、息子たちに学問と農業に励み、郷里の人々から称えられるようにと遺言を残しました。耿福の死後、その功績を称え、子孫によって墓碑が建立されました。

家族

耿福は董氏、張氏という3人の妻を娶り、4人の息子と2人の娘をもうけました。息子たちはそれぞれ束鹿軍民長官や束鹿県尉などの地位を継承し、娘たちは他の漢人世侯の息子に嫁ぎました。子孫は代々モンゴル帝国に仕え、その地位を保ちました。

耿福は、金朝末期の混乱期に自らの才覚で勢力を拡大し、モンゴル帝国の侵攻に協力することで、その地位を確立した人物です。彼の活躍は、当時の華北社会における漢人世侯の存在を示す好例と言えるでしょう。

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