聖エラスムスと聖マウリティウス

『聖エラスムスと聖マウリティウス』

『聖エラスムスと聖マウリティウス』（せいエラスムスとせいマウリティウス）は、1520年から1524年にかけてドイツの画家マティアス・グリューネヴァルトによって制作された絵画です。この作品は、グリューネヴァルトの晩年の傑作とされており、現在はミュンヘンのアルテ・ピナコテークに所蔵されています。元々はハレ市にある新しい参事会聖堂のために作られたもので、作品の依頼者である大司教アルブレヒト・フォン・ブランデンブルクが崇拝していた聖エラスムスと、ハレで復活した聖マウリティウスが描かれています。

聖エラスムスと聖マウリティウスの描写

絵の左側には、紀元303年にアンティオキアで殉教した司教である聖エラスムスが描かれています。彼は豪華な司教服を身にまとい、誇り高く立っています。右手には自身の殉教を示す象徴として、腸で包まれたスピンドルを持っています。この腸は、彼の命が失われる際に船のウィンチにより引き抜かれたことを象徴しています。

一方、右側には、銀の鎧を身に着けた黒人の聖マウリティウスがいます。彼は白い手袋をはめた手を挙げて、聖エラスムスに挨拶をし、その姿は神聖さと威厳を放っています。聖マウリティウスは、エジプトのテーベ軍団の指揮官であり、キリスト教徒であったため、ローマ皇帝ディオクレティウスの命令に従わず、迫害を拒否して亡くなったという言い伝えがあります。

聖エラスムスの背後には、白髪の修道院長が立っており、彼は聖エラスムスの顧問です。また、聖マウリティウスの背後には力強い兵士たちが描かれており、この作品全体を通じて中世のさまざまな社会階層が見事に表現されています。

世界の教会と政治

この絵画は、ヨーロッパの聖職者の指導者とアフリカの兵士たちの指導者の邂逅を描写しています。これは世界を舞台にした教会と政治の出会いを象徴しており、2つの大陸におけるカトリック教会の権威と栄光の証とも言えます。作品の登場人物たちは、異なる背景を持ちながらも、同じ信仰によって結ばれていることを示しています。

歴史的背景

聖エラスムスの肖像は、実際にはアルブレヒト・フォン・ブランデンブルクの姿が反映されています。彼は1514年にマインツとマグデブルクの大司教となり、その後1518年にはローマ教皇レオ10世により枢機卿に任命されました。アルブレヒトは神聖ローマ帝国の宰相となり、プロテスタント宗教改革に対して強い反対を示した人物です。

この作品は、宗教改革の時代にハレからアシャッフェンブルクの聖ペトロとアレクサンドロスの参事会聖堂へ移され、その後1814年にバイエルン王国によって購入されました。1836年にアルテ・ピナコテークが開館して以来、この絵画はその所蔵品として多くの人々に親しまれています。

このように、グリューネヴァルトの『聖エラスムスと聖マウリティウス』は、信仰、歴史、社会階層の複雑な交差を描いた深い意味を持つ作品です。

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