聖カタリナの神秘の結婚 (コレッジョ、ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

『聖カタリナの神秘の結婚』は、ルネサンス期の画家コレッジョが1510年から1515年にかけて制作した油彩画です。この作品は、アレクサンドリアの聖カタリナの神秘的な結婚を主題としたコレッジョの初期の作品の一つであり、美術史家セシル・グールドによって小型絵画の傑作と評されています。現在はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されています。

主題

『黄金伝説』によれば、聖カタリナは学識豊かな王女でした。ローマ皇帝マクセンティウスが彼女に結婚を迫りましたが、彼女はキリスト教の信仰を貫きました。皇帝は学者たちを招いて彼女の信仰を崩そうとしましたが、聖カタリナは逆に学者たちを論破しました。怒った皇帝は彼女を投獄しましたが、彼女は信仰を捨てませんでした。拷問用の車輪で処刑されそうになった時、落雷によって車輪が破壊され、彼女は奇跡的に助かりました。その後、斬首刑に処せられましたが、天使によって遺体はシナイ山の修道院に運ばれたと伝えられています。破壊された車輪は、殉教者である彼女の象徴となりました。聖カタリナは、キリストと神秘的な結婚をしたと伝えられており、別の伝説では、隠者から聖母子画を授けられた際に、幼いキリストが彼女に指輪をはめたとされています。

作品

画面中央には、玉座に座る聖母子と、その右側でひざまずく聖カタリナが描かれています。聖母子の背後には聖アンナが座っており、聖母の両側には聖フランチェスコと聖ドミニコが立っています。聖アンナは、聖カタリナと聖母にそれぞれ掌を向けています。聖母は青いローブに赤いドレスをまとい、幼児キリストを見つめています。幼児キリストは、聖カタリナの指に指輪をはめようとしています。聖カタリナは金髪を後ろにまとめ、緑色のドレスと金色のケープを着用しています。

画面左の聖フランチェスコは、モスグリーンのローブを着て、手の傷を胸に当てています。画面右の聖ドミニコは、白いローブと黒いマントをまとい、右手に本、左手に白い百合を持っています。

玉座は壁龕の前に置かれ、果物の花輪で飾られています。聖アンナの頭の後ろには、天使が金の輪を掲げています。玉座の基部には、聖カタリナの殉教場面を描いたメダリオンが飾られています。聖カタリナの足元には、金冠、剣、破壊された車輪の破片が置かれています。この作品は、聖母マリアと聖アンナを描いたサンタンナ・メッテルツァと聖カタリナの神秘の結婚という2つの主題を組み合わせています。コレッジョは、聖アンナを構図の中心に配置することで、彼女の母性を強調しています。聖フランチェスコと聖ドミニコの存在は、フランシスコ会とドミニコ会を示唆しており、発注者の要望で加えられたと考えられます。

この作品は、コレッジョの初期の作品であり、その後の祭壇画『聖フランチェスコの聖母』との類似性が見られます。特に、聖フランチェスコとパドヴァの聖アントニウスのポーズ、玉座基部の色彩表現に共通点が見られます。

作品は、かつてラファエロやフラ・バルトロメオの作品とされていましたが、1875年に美術史家ジョヴァンニ・モレッリによってコレッジョの初期作品とされました。保存状態は良好とは言えませんが、その魅力は保たれており、セシル・グールドは「絶妙」で「コレッジョの最初の細密画の傑作」と評価しています。

来歴

絵画に関する最初の記録は19世紀にさかのぼり、フェラーラのジョヴァンニ・バッティスタ・コスタビリ・コンタイニ伯爵の所有物であったとされます。伯爵の死後、甥が相続し、その後、美術評論家グスタボ・フリッツォーニ、アルベルト・ジヌリアック、ルイージ・ボノミといった所有者の手に渡りました。最終的に、フィレンツェのアレッサンドロ・コンティーニ・ボナコッシ伯爵が所有し、1932年にニューヨークのサミュエル・H・クレス財団に売却され、1939年にナショナル・ギャラリー・オブ・アートに寄贈されました。

ギャラリー

聖カタリナの神秘の結婚

部分図

ディテール

脚注

[1] ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』
[2] 黒江光彦監修『西洋絵画作品名辞典』

外部リンク

ナショナル・ギャラリー・オブ・アート公式サイト

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