聖タデウス修道院

聖タデウス修道院：イランの黒の教会

イラン北西部、西アゼルバイジャン州のマク西方20キロメートルに位置する聖タデウス修道院は、アルメニア正教会の重要な巡礼地であり、その歴史と建築様式から世界的に知られています。別名「黒の教会」(Qara Kilsə)と呼ばれるこの修道院は、ユネスコの世界遺産（イランのアルメニア人修道院建造物群の一部）にも登録されており、2020年には、毎年多くの巡礼者が訪れるこの修道院への巡礼自体も無形文化遺産として認められました。

重厚な建築と歴史

聖タデウス修道院は、2本の尖塔を持つ円柱状のタンブールが特徴的な、重厚感あふれる建物です。敷地内には複数の聖堂があり、そのうち3つは東側を流れる小川沿いの丘の上に、もう1つは修道院から南へ約3キロメートルのバスタムへの道沿いに位置しています。さらに、Ghara-Kilse村には現在も機能する教会があります。

修道院の創建は、十二使徒のひとりである聖タダイ（タデウス）の殉教にまで遡ると伝えられています。聖タダイは福音を広める中で殉教し、アルメニア正教会をはじめとする多くのキリスト教派で崇敬されています。伝説によれば、修道院は西暦68年に創建されたとされています。

1319年の大地震により大きな被害を受けましたが、1329年に再建されました。しかし、聖餐台の周辺には10世紀からの遺構も残されており、長い歴史を物語っています。現在の修道院の多くは、19世紀初頭にガージャール朝時代の王子アッバース・ミールザーによって修復されたものです。この修復では、砂岩が使用されており、この砂岩の色が黒色だったことから、「黒の教会」という名が付けられたと考えられています。

世界遺産登録基準

聖タデウス修道院は、以下のユネスコの世界遺産登録基準を満たしていることから世界遺産に登録されました。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
* (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの。

巡礼と文化的意義

聖タデウス修道院は、アルメニア人にとって聖地であり、毎年多くのアルメニア人、イラン系アルメニア人、そしてアルメニア使徒教会の信者たちが巡礼に訪れます。この巡礼は、宗教的な信仰だけでなく、アルメニア人の文化とアイデンティティを維持する上で重要な役割を果たしています。ユネスコによる無形文化遺産への登録も、この巡礼の文化的意義の高さを示しています。

まとめ

聖タデウス修道院は、その歴史、建築、そして文化的意義において、イラン、そして世界における重要な遺産です。この修道院を訪れることは、歴史と文化への深い理解を深める貴重な体験となるでしょう。 黒く重厚な石造りの教会は、静かに時の流れを見つめ、訪れる人々に歴史と信仰の重みを伝えています。

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