聖チェチリアの法悦 (ラファエロ)

『聖チェチリアの法悦』について

概要

『聖チェチリアの法悦』（せいチェチリアのほうえつ、伊: Estasi di santa Cecilia、英: The Ecstasy of St. Cecilia）は、イタリア・盛期ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンティが1516年から1517年にかけて制作した油彩の祭壇画です。この作品は、ボローニャの聖アウグスチノ修道会に捧げられた礼拝堂のために特別に依頼されたもので、聖チェチリアが音楽の聖女として描かれています。元々は木板に描かれていましたが、後にキャンバスに移し替えられました。

聖女の描写

聖チェチリアは音楽家を守護する聖人で、彼女の安息の場とされるローマのトラステヴェレ地区に埋葬されています。この祭壇画では、聖チェチリアが聖パウロ、福音記者ヨハネ、聖アウグスティヌス、マグダラのマリアと共に天使の合唱を聞いている場面が示されています。ラファエロは聖チェチリアの恍惚とした表情と、彼女を囲む聖人たちの感情豊かな姿を巧みに描き出しています。

作品の歴史

この祭壇画の依頼主は、ボローニャの貴族エレーナ・ドゥッリオーリでした。彼女は聖チェチリアに対する特別な信仰を持っており、聖遺物を受け取ったことでその信仰は強まったとされています。絵画は1798年にパリで略奪され、そこで板からキャンバスに移された後、1815年にボローニャに返還されました。現在はボローニャ国立絵画館に展示されていますが、長年の補修作業により状態は悪化しています。

図像の構成

この絵画は、他の聖人たちとの相互作用の中で聖チェチリアの姿を強調しています。聖ヨハネは彼の象徴である鷲と共に描かれ、聖パウロは剣を持ち、聖アウグスティヌスは司教杖を携えています。マグダラのマリアは特有の壺を持っており、彼女たちの配置や持物はそれぞれの聖人を明確に示しています。

音楽の象徴

聖チェチリアはその手のオルガンを微妙に持っており、その姿勢は彼女の貞潔さを象徴しています。また、彼女の足元には壊れた楽器が散らばっており、これは地上の音楽や世俗的快楽の否定を示唆しています。ラファエロはこの作品を通じて、宗教音楽と信仰の重要性を伝えようとしました。

文化的影響

聖チェチリアは音楽と結びついており、彼女の姿は中世から音楽の理念を表わしてきました。この作品は、彼女の聖なる信仰と音楽の統一を象徴的に示しています。さらに、画家の意図に対する理解を深めるため、マルカントニオ・ライモンディが制作したエングレービングとも比較されることがありますが、これはラファエロの意図を忠実に反映したものではなく、自由に改変されたものとされます。

おわりに

『聖チェチリアの法悦』は、ラファエロの技術と聖なるテーマの探求を融合させた作品です。音楽、信仰、そして当時の社会背景を通じて、聖チェチリアが象徴する深いメッセージを伝えています。美術史におけるこの作品の位置付けは、今後も多くの研究者の興味を引き続けることでしょう。

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