トラステヴェレ
トラステヴェレ（Trastevere）は、イタリアの首都ローマに広がる魅力的な地区（リオーネ）です。市の中心部からテヴェレ川を隔てた西岸に位置することから、その名はイタリア語で「テヴェレ川の向こう側」を意味します。古くからこの土地は「ローマの下町」として親しまれてきました。
トラステヴェレは、ヴァチカン市国の南側、そしてローマの有名な観光地であるフォロ・ロマーノやコロッセオ、真実の口にも近い場所にあります。これらの地区からは、テヴェレ川に架かる橋を渡ってアクセスできます。行政上の境界は、北東から南東にかけてはテヴェレ川の流れによって区切られ、西と南側は歴史的なアウレリアヌス城壁が囲んでいます。北側はボルゴ地区に隣接しており、ポルタ・カヴァレッジェーリ通り付近が境界となっています。ヴァチカン市国はトラステヴェレの北西に位置します。
ただし、観光ガイドなどで「トラステヴェレ地区」として紹介される範囲は、行政区画と完全に一致しない場合があります。南側はアウレリアヌス城壁をわずかに越えたエリアまで含まれることがあり、逆に北側はより限定されるケースも見られます。また、テヴェレ川の中州であるティベリーナ島は、行政上は別の地区に属しますが、観光エリアとしてはトラステヴェレの一部のように扱われることも少なくありません。
この地区は古い歴史を持つ街並みが魅力ですが、「庶民的な下町」という形容がよく似合います。特に南東部のテヴェレ川が蛇行する辺りは、石畳の細い路地が複雑に入り組み、独特の雰囲気を作り出しています。ここには夜遅くまで営業するピッツェリアやトラットリア、バーなどが数多く軒を連ね、地元の若者や観光客で常に賑わっています。その活気から、トラステヴェレはローマのナイトライフの中心地の一つとして知られています。一方で、静かで歴史を感じさせる古い教会も点在しており、多様な表情を持っています。
地区の北西部には、ジャニコロの丘と呼ばれる小高い丘があります。この丘の上には公園や高級ホテルがあり、そこからはローマ市街の素晴らしいパノラマビューを楽しむことができます。丘の周辺、モンテ・ヴェルデと呼ばれる地域は、閑静な高級住宅街となっています。
トラステヴェレの歴史は古く、紀元前753年から509年の王政ローマ時代には、テヴェレ川を挟んでエトルリア人が居住していました。その後ローマに征服され、川を利用した漁業などが営まれていました。ローマ帝国期には、ユダヤ人などローマ本来の住民以外の異民族が多く暮らす地域となり、ローマにおける最初のキリスト教共同体もこの辺りで形成されたと考えられています。紀元前38年には、この地区で油のような液体が地中から噴出したという出来事があり、これは後にサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂の縁起伝承として語り継がれています。
410年の西ゴート族によるローマ劫掠の際には、この一帯も被害を受けました。中世になると、トラステヴェレには様々な階級の人々が混在して居住するようになり、その歴史的な背景が、現代にも通じる庶民的で雑多な「下町」の雰囲気を形成したという説もあります。
トラステヴェレには、歴史的に価値のある見どころが点在しています。地区の中心部には、ローマでも有数の歴史を持つ教会、サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂があります。紀元221年に起源を持つとされるこの聖堂は、美しいロマネスク様式の建築で、内部には創建当時のものとされるモザイクが残されています。歴史の項目で触れた油の噴出伝説の地とされ、「FONS OLEI（油の泉）」の文字が刻まれた場所もあります。聖堂周辺は、前述の通り入り組んだ路地に数多くの飲食店が集まる活気あるエリアです。
地区の北側から西側にかけて広がるジャニコロの丘は、散策にぴったりの場所です。丘の頂上には広々とした公園があり、イタリア統一の英雄ガリバルディの騎馬像が立っています。また、ローマ・ラ・サピエンツァ大学の実験植物園もここにあります。公園の南端近くには、中世に再建された水道橋の終点施設である美しいパオラの泉があります。
ジャニコロの丘の東側の麓、テヴェレ川に挟まれたエリアには、16世紀のルネサンス建築の傑作、ヴィラ・ファルネジーナがあります。そのすぐ近くには、国立コルシーニ美術館が入居するパラッツォ・コルシーニがあり、中世から近代にかけてのイタリア絵画を鑑賞できます。
その他の著名な教会としては、美しいモザイクを持つサンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ聖堂、ベルニーニの彫刻で知られるサン・フランチェスコ・ア・リーパ教会、そして眺めの良い場所に立つサン・ピエトロ・イン・モントーリオ寺院などがあります。サンタ・チェチリア聖堂には、伝説的な聖女チェチリアの邸宅跡があるとされ、ピエトロ・カヴァリーニのフレスコ画『最後の審判』や、聖女の遺骸をモデルにしたとされるステファノ・マデルノの彫刻も収められています。
トラステヴェレ地区内には鉄道駅がないため、ローマ市街からのアクセスには主にトラムやバス、夜間はタクシーが利用されます。地区の名を冠した「ローマ・トラステヴェレ駅」は、実際にはアウレリアヌス城壁の外側に位置しており、地区の中心部までは1キロメートルほど離れています。しかし、この駅前からトラム8号線が運行しており、トラステヴェレ通りを通り抜けて地区の中心部へアクセスするのに便利です。トラムはガリバルディ橋を渡ってテヴェレ川を越え、地区内にも複数の停留所があります。その他、クアトロ・ヴェンティ駅やローマ・サン・ピエトロ駅なども比較的近い場所にありますが、いずれも地区の外にあります。
賑やかな路地裏散策から歴史的な教会巡り、丘からの絶景まで、トラステヴェレはローマの多様な魅力を凝縮した地区と言えるでしょう。
位置と範囲
トラステヴェレは、ヴァチカン市国の南側、そしてローマの有名な観光地であるフォロ・ロマーノやコロッセオ、真実の口にも近い場所にあります。これらの地区からは、テヴェレ川に架かる橋を渡ってアクセスできます。行政上の境界は、北東から南東にかけてはテヴェレ川の流れによって区切られ、西と南側は歴史的なアウレリアヌス城壁が囲んでいます。北側はボルゴ地区に隣接しており、ポルタ・カヴァレッジェーリ通り付近が境界となっています。ヴァチカン市国はトラステヴェレの北西に位置します。
ただし、観光ガイドなどで「トラステヴェレ地区」として紹介される範囲は、行政区画と完全に一致しない場合があります。南側はアウレリアヌス城壁をわずかに越えたエリアまで含まれることがあり、逆に北側はより限定されるケースも見られます。また、テヴェレ川の中州であるティベリーナ島は、行政上は別の地区に属しますが、観光エリアとしてはトラステヴェレの一部のように扱われることも少なくありません。
地域の特徴
この地区は古い歴史を持つ街並みが魅力ですが、「庶民的な下町」という形容がよく似合います。特に南東部のテヴェレ川が蛇行する辺りは、石畳の細い路地が複雑に入り組み、独特の雰囲気を作り出しています。ここには夜遅くまで営業するピッツェリアやトラットリア、バーなどが数多く軒を連ね、地元の若者や観光客で常に賑わっています。その活気から、トラステヴェレはローマのナイトライフの中心地の一つとして知られています。一方で、静かで歴史を感じさせる古い教会も点在しており、多様な表情を持っています。
地区の北西部には、ジャニコロの丘と呼ばれる小高い丘があります。この丘の上には公園や高級ホテルがあり、そこからはローマ市街の素晴らしいパノラマビューを楽しむことができます。丘の周辺、モンテ・ヴェルデと呼ばれる地域は、閑静な高級住宅街となっています。
歴史の変遷
トラステヴェレの歴史は古く、紀元前753年から509年の王政ローマ時代には、テヴェレ川を挟んでエトルリア人が居住していました。その後ローマに征服され、川を利用した漁業などが営まれていました。ローマ帝国期には、ユダヤ人などローマ本来の住民以外の異民族が多く暮らす地域となり、ローマにおける最初のキリスト教共同体もこの辺りで形成されたと考えられています。紀元前38年には、この地区で油のような液体が地中から噴出したという出来事があり、これは後にサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂の縁起伝承として語り継がれています。
410年の西ゴート族によるローマ劫掠の際には、この一帯も被害を受けました。中世になると、トラステヴェレには様々な階級の人々が混在して居住するようになり、その歴史的な背景が、現代にも通じる庶民的で雑多な「下町」の雰囲気を形成したという説もあります。
見どころ
トラステヴェレには、歴史的に価値のある見どころが点在しています。地区の中心部には、ローマでも有数の歴史を持つ教会、サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂があります。紀元221年に起源を持つとされるこの聖堂は、美しいロマネスク様式の建築で、内部には創建当時のものとされるモザイクが残されています。歴史の項目で触れた油の噴出伝説の地とされ、「FONS OLEI（油の泉）」の文字が刻まれた場所もあります。聖堂周辺は、前述の通り入り組んだ路地に数多くの飲食店が集まる活気あるエリアです。
地区の北側から西側にかけて広がるジャニコロの丘は、散策にぴったりの場所です。丘の頂上には広々とした公園があり、イタリア統一の英雄ガリバルディの騎馬像が立っています。また、ローマ・ラ・サピエンツァ大学の実験植物園もここにあります。公園の南端近くには、中世に再建された水道橋の終点施設である美しいパオラの泉があります。
ジャニコロの丘の東側の麓、テヴェレ川に挟まれたエリアには、16世紀のルネサンス建築の傑作、ヴィラ・ファルネジーナがあります。そのすぐ近くには、国立コルシーニ美術館が入居するパラッツォ・コルシーニがあり、中世から近代にかけてのイタリア絵画を鑑賞できます。
その他の著名な教会としては、美しいモザイクを持つサンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ聖堂、ベルニーニの彫刻で知られるサン・フランチェスコ・ア・リーパ教会、そして眺めの良い場所に立つサン・ピエトロ・イン・モントーリオ寺院などがあります。サンタ・チェチリア聖堂には、伝説的な聖女チェチリアの邸宅跡があるとされ、ピエトロ・カヴァリーニのフレスコ画『最後の審判』や、聖女の遺骸をモデルにしたとされるステファノ・マデルノの彫刻も収められています。
交通アクセス
トラステヴェレ地区内には鉄道駅がないため、ローマ市街からのアクセスには主にトラムやバス、夜間はタクシーが利用されます。地区の名を冠した「ローマ・トラステヴェレ駅」は、実際にはアウレリアヌス城壁の外側に位置しており、地区の中心部までは1キロメートルほど離れています。しかし、この駅前からトラム8号線が運行しており、トラステヴェレ通りを通り抜けて地区の中心部へアクセスするのに便利です。トラムはガリバルディ橋を渡ってテヴェレ川を越え、地区内にも複数の停留所があります。その他、クアトロ・ヴェンティ駅やローマ・サン・ピエトロ駅なども比較的近い場所にありますが、いずれも地区の外にあります。
賑やかな路地裏散策から歴史的な教会巡り、丘からの絶景まで、トラステヴェレはローマの多様な魅力を凝縮した地区と言えるでしょう。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。