聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領 (ボッティチェッリ)

サンドロ・ボッティチェッリの『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』は、15世紀末のフィレンツェで制作された、非常に珍しい主題を扱った絵画です。この作品は、1494年から1495年頃に描かれ、現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されています。

作品の背景
この絵画は、聖エウセビウスが書いたとされる三つの外典の手紙の一つから着想を得ています。聖ヒエロニムスは、生涯の終わりに、聖エウセビウス自身から最後の聖体拝領を受けたとされています。通常、聖ヒエロニムスは書斎で思索に耽る姿が描かれることが多いですが、本作では、死を前にして聖体を受けるという、極めて稀な場面が描かれています。

作品の特徴
この作品が制作された時期は、フィレンツェでジロラモ・サヴォナローラの説教が盛んに行われていた時期と重なります。サヴォナローラは、当時のフィレンツェの文化や芸術に対して厳しい批判を行い、宗教的な純粋さを求めました。そのため、この絵画の依頼者が、裕福な商人であるフランチェスコ・デル・プッリエーゼであるという説もありますが、実際には、フェラーラ出身のサヴォナローラの信奉者であった可能性が高いと考えられています。

作品の構図と表現
ボッティチェッリは、聖ヒエロニムスの死の直前の神聖な瞬間を、非常に繊細な筆致で描いています。聖ヒエロニムスは、病に伏せながらも、静かに聖体を受けており、彼の穏やかな表情は、死に対する恐怖ではなく、深い信仰心を示しています。また、聖エウセビウスの敬虔な姿は、この場面の神聖さをさらに際立たせています。背景には、質素な部屋が描かれ、無駄な装飾を排した簡素な表現は、サヴォナローラの影響を色濃く反映していると考えられます。

他の画家による同主題の作品
この主題は、バロック期の画家たちにも描かれており、アゴスティーノ・カラッチはボローニャ国立絵画館に所蔵されている作品で、ドメニキーノはヴァチカン美術館の絵画館に所蔵されている作品で、それぞれ同じ場面を描いています。これらの作品と比較することで、ボッティチェッリの作品の独自性や特徴がより明確になります。

まとめ
『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』は、ボッティチェッリの卓越した技術と、当時のフィレンツェの宗教的な状況が組み合わさって生まれた、非常に重要な作品です。この作品は、聖ヒエロニムスの生涯における重要な場面を描き出すとともに、ボッティチェッリの芸術的な才能と、ルネサンス期の宗教観を理解する上で貴重な資料となっています。メトロポリタン美術館を訪れる際には、ぜひこの作品を鑑賞し、その深い意味を感じ取ってみてください。

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