聖プラクセディス

『聖プラクセディス』

『聖プラクセディス』は、オランダ黄金時代を代表する画家ヨハネス・フェルメールによって1655年頃に描かれたとされる作品です。しかし、この作品が本当にフェルメールの手によるものなのか、真作であるのかどうかについては、依然としてさまざまな意見が交わされています。本作の主題は、古代ローマの殉教者プラクセディスとされ、聖人が海綿の血を美しい器に注ぐ瞬間が描かれています。この構図は、17世紀のイタリア人画家フェリーチェ・フィチェレッリが描いた作品に酷似しており、多くの専門家は『聖プラクセディス』がフィチェレッリの模写であると考えています。

構成と来歴

この絵画は、胸元の十字架が描かれているかどうかが最も大きな異な点で、フェルメールの真作である場合、彼の初期作品の一つとして位置づけられます。フェルメールが何故あまり知られていないフィチェレッリの作品を模写したのか、その理由は分かっていませんが、彼の作品には特異な魅力があります。20世紀半ばまでの本作の来歴は不明ですが、1943年にヤーコブ・レダーというコレクターがニューヨークのオークションで購入したという記録が残っています。

1969年、特別展にて本作がフィチェレッリの作品として展示された際、イギリス人美術史家マイケル・キットソンがフェルメールの可能性について言及します。同年、レダーが死去し、画商スペンサー・A・サミュエルズが本作を購入しました。この作品は1987年にバーバラ・ピエセッカ・ジョンソン・コレクション財団に渡り、展示されていたのはモナコの礼拝堂美術館です。しかし、オーナーが亡くなった後、本作は2014年のオークションにかけられ、624万2500ポンドで落札されました。この売上の一部は、バーバラの故郷の自閉症研究施設に寄付されました。

その後、国立西洋美術館が本作を展示し、2015年から常設展示として多くの観客の目を楽しませています。また、2023年にはアムステルダム国立美術館でのフェルメール展にも出展され、多くの人々がこの作品を鑑賞しました。

真贋を巡る議論

『聖プラクセディス』には「Meer 1655」と「Meer N R o o」と二つの署名が存在します。これに関して、後者は「Riposoに倣って、Meer」という解釈があり、ここでの「Riposo」はフィチェレッリのあだ名とされています。一部の専門家は、これらの署名を自身のものとし、フェルメールの作品であると結論づけていますが、他方ではこれが後から加えられた可能性や、稚拙なものであるとの反論も存在しています。

さらに、使用されている顔料に関しても、17世紀のものであることが確認され、オランダ製の可能性が高いとされます。ウィーロックはこの作品がフェルメールのものであると判断しましたが、他の専門家、特にワダムは異なる見解を持っています。彼は『聖プラクセディス』が模写である可能性を否定し、フィチェレッリのオリジナル作品であると主張しました。

作品の展示を行っている国立西洋美術館では、作者名についての意見が一致しないため、「フェルメールに帰属」と表記されており、今後もこの作品に関する議論は続くことでしょう。『聖プラクセディス』は、ただの絵画としてではなく、歴史や文化、そして芸術の真実を探求する手がかりとして、多くの人々に考察を促す作品となっています。

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