聖母の結婚 (ラファエロ)

ラファエロの傑作『聖母の結婚』

ラファエロ・サンツィオが1504年に制作した『聖母の結婚』（Lo Sposalizio della Vergine）は、盛期ルネサンスを代表する絵画の一つです。この作品は、聖母マリアとナザレのヨセフの結婚という宗教的な主題を描いており、チッタ・ディ・カステッロのサン・フランチェスコ教会のために制作されました。

主題の背景

外典福音書や『黄金伝説』によると、マリアはエルサレムの神殿で育てられました。神の啓示により、結婚適齢期の男性たちが杖を持って神殿に集められ、神の徴が現れた者がマリアの夫となることが告げられます。ヨセフの杖から花が咲いたことで、彼がマリアの夫に選ばれました。高齢で年齢差を気にしていたヨセフですが、最終的にはマリアと結婚することになります。

制作の経緯

この作品は、ラファエロがチッタ・ディ・カステッロから受けた3つの祭壇画発注の最後を飾るものです。当初、フィリッポ・デッリ・アルベッツィーニによって師であるピエトロ・ペルジーノに発注されたものの、ペルジーノの不在のためラファエロが完成させました。1504年にラファエロが完成させたことは、署名と日付から明らかになっています。

作品の特徴

ラファエロは、ペルジーノの同主題作品を参考にしながらも、構図や人物配置に独自の工夫を凝らしています。ジョルジョ・ヴァザーリは、ラファエロが師に匹敵するだけでなく、凌駕していると評価しました。

遠近法と構図

ラファエロは、ペルジーノ同様に線遠近法に基づいた幾何学的なシンメトリー構図を採用し、背景に理想化されたエルサレム神殿を描いています。神殿の扉に消失点を設定することで、視覚的な中心を作り出しています。赤外線調査によれば、神殿の図像はピエロ・デラ・フランチェスカの理論に基づいていることがわかっています。

人物配置の工夫

前景には、聖ヨセフと聖母マリアの結婚式が描かれています。ペルジーノが人物を並列的に配置したのに対し、ラファエロは半円形に配置し、奥行き感を出しています。また、ペルジーノ作品では小さく描かれていた杖を折る若者のモチーフを前景に配置することで、画面に動きを与えています。

エルサレム神殿の描写

ペルジーノの作品では八角形だった神殿を、ラファエロは十六角形に描き、丸天井（クーポラ）を画面内に収めています。これにより、より壮大で完成度の高い建築物として表現しています。

作品の来歴

1571年、ウルビーノ公爵は祭壇画の取得を試みましたが失敗しました。1798年、フランス軍の将軍がチッタ・ディ・カステッロからこの作品を運び去り、その後、ミラノのジャコモ・サンナザロに売却され、マッジョーレ病院に遺贈されました。1805年、ブレラ美術館が病院から購入し、現在に至ります。

まとめ

『聖母の結婚』は、ラファエロの才能とルネサンス期の芸術的な進歩を示す傑作です。ペルジーノの作品を踏襲しつつ、独自の解釈と卓越した技術でより完成度の高い作品に仕上げています。遠近法を駆使した構図、人物の配置、建築物の描写など、細部に至るまでラファエロの並外れた才能が発揮されています。

参考文献

『週刊美術館21 ミケランジェロ／ラファエロ 信仰世界の中心をつくる』小学館（2000年）

外部リンク

ブレラ美術館公式サイト, ラファエロ・サンツィオ『聖母の結婚』

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