聖母マリアの汚れなきみ心

聖母マリアの汚れなきみ心：慈愛と犠牲の象徴

聖母マリアの汚れなきみ心は、カトリック教会における重要な信心の一つです。この信心は、マリアの喜び、悲しみ、美徳、そして神と人類への深い愛を称えるものです。マリアの内なる生活、特に処女性をもって神を愛したこと、イエスへの母性愛、全人類への慈悲深い思いが表現されています。東方正教会も聖画や信心、神学理論において部分的に関連する要素を取り入れてきましたが、いくつかの論争も引き起こしました。カトリック教会におけるマリア神学は、ヨハネ・パウロ2世の使徒的書簡「おとめマリアのロザリオ」に例示されています。

聖母マリアの御心は、伝統的に7本の剣で貫かれた姿で表現されることが多く、「聖母の七つの悲しみ」への敬意を表しています。薔薇などの花も、マリアの御心を象徴するモチーフとして用いられます。日本語ではイエスの聖心を「聖心」、マリアの聖心を「御心」と区別して表記します。

マリアの御心への崇敬：イエスの聖心との比較

マリアの御心への崇敬は、イエスの聖心への崇拝と類似点を持つ一方、重要な違いがあります。イエスの聖心への信心は、人類への愛に溢れるイエスの聖心そのものに直接向けられますが、マリアの御心への信心は、神とイエスに向けられたマリアの愛を介して行われます。また、その性格も異なります。イエスの聖心への信心は、キリストの愛に応える愛の表現ですが、マリアの御心への信心は、研究と模倣が重要な要素となります。マリアの御心への信心の目的は、マリアの御心を媒介として神と人類を結びつけることであり、奉献と償いの精神が含まれます。最終目標は、マリアの御心に倣い、神への愛を深めることです。

信心の歴史：福音書から聖人まで

マリアの御心への信心のルーツは、福音書に見ることができます。「ルカによる福音書」は、マリアが経験した出来事を心に秘め、熟考したことを記しています。特にルカ2章35節のシメオンの預言は、マリアの心に深い傷を与えた出来事として描かれています。この「剣で貫かれる」イメージは、マリアの汚れなきみ心を表現する最も一般的な図像となっています。「ヨハネによる福音書」は、十字架上のイエスの傍らにいるマリアの姿を描写し、その心情に焦点を当てています。アウグスティヌスは、マリアが単に悲しんでいたのではなく、キリストの贖罪に自ら苦しむことで共に参与したと解釈しました。

レオ1世は、マリアがイエス懐胎前から信仰と愛を通してイエスを霊的に宿していたと主張しました。アウグスティヌスの教えでは、マリアがキリストを肉体的に宿した以上に、自らの心の中でキリストを受け入れたことが祝福の源とされています。

中世には、アンセルムスやベルナルドゥスといった聖人たちがマリアの御心への信心を確立させ、メヒティルド、聖ゲルトルード、ビルギッタらがこの信心を発展させました。「アヴェ・マリアの祈り」や「元后あわれみの母への祈り」といった祈りが、その証となっています。13世紀のリチャード・デ・サンローランの著作『聖なる乙女マリアへの賛美』も、この信心の歴史を語る重要な文献です。

トマス・ベケットは、「マリアの喜びと悲しみへの信心」をマリアの御心への信心に加え、ヘルマン・ヨーゼフやビルギッタもこれに倣いました。シエナのバーナディーノは「マリアの御心の博士」と呼ばれ、カトリック教会がマリアの喜びと悲しみを第2夜課の祈りとして取り入れるのは、彼によるものです。フランシスコ・サレジオは、マリアの御心の完全さと神への愛を著作に記しました。16世紀後半から17世紀前半には、禁欲主義的な作家たちによって、マリアの御心への信心に関する詳細な著作が数多く発表されました。