聖母子と幼児聖ヨハネ (コレッジョ、シカゴ美術館)

作品概要

『聖母子と幼児聖ヨハネ』は、イタリア・ルネサンス期の画家コレッジョによって1515年頃に制作された油彩画です。この作品は、コレッジョ初期の聖母子像の中でも特に成熟した作品として知られています。現在、アメリカ合衆国イリノイ州のシカゴ美術館に所蔵されています。

詳細な描写

画面の中央には、レモンの蔓棚の前で聖母マリアが草の土手に腰掛けており、その膝の上に幼いイエス・キリストが座っています。マリアは右足を少し前に出し、その上にキリストを抱いています。幼児の洗礼者ヨハネは、敬虔な様子でひざまずき、胸に手を当ててイエスを見上げています。イエスは祝福を与えるような仕草でヨハネに応えています。

背景には、緑豊かなレモンの木が蔓棚に支えられており、レモンはマリアの象徴と考えられます。画面右側には、空気遠近法を用いて描かれた森や建築物が、青みを帯びた美しい色彩で表現されています。これらの遠景は、作品全体の奥行きを強調し、静かで穏やかな雰囲気を醸し出しています。

聖母マリアの姿は、クローズアップされた構図と、前に突き出した右膝の描写によって、より強調されています。これにより、聖母像に新しく活気のあるボリュームが与えられています。聖母の優しい表情や、ヨハネを迎え入れる繊細な動作は、作品に穏やかな静けさをもたらしています。

図像的源泉

この作品の聖母像には、複数の図像的源泉が指摘されています。聖母のポーズは、アンドレア・マンテーニャの祭壇画『トリヴルツィオの聖母』に類似しており、背景の風景はアルブレヒト・デューラーの版画の影響を受けていると考えられます。また、人物群のピラミッド型の配置は、レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロ・サンツィオの盛期ルネサンス様式を反映しています。特に、聖母の柔らかな輪郭と謎めいた微笑は、レオナルド・ダ・ヴィンチを彷彿とさせます。

祝福を与える幼児キリストの仕草は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』に描かれた幼児キリストと同じものです。コレッジョは、ルネサンスの中心地から離れた場所で、他の巨匠たちの芸術を吸収し、独自の様式を発展させました。その結果、驚くほど革新的な作品が生み出されたと言えるでしょう。

コレッジョの独自性

コレッジョの独自性は、人物たちの穏やかな官能性と、視線を通してお互いに見せる優しさにあります。光と影、そして色彩を巧みに使い、画面全体を優しい輝きで満たしています。肌や衣服は滑らかな質感を持っており、非常に繊細な筆遣いと巧みな色彩が用いられています。特に、右側の遠景の描写は際立っており、前景の人物やレモンの木は鮮やかな色彩で緻密に描かれています。

来歴

作品の初期の来歴は不明ですが、1815年にパリの外交官・文人ニコラス・マシアス男爵が所有していたことが記録に残っています。その後、1825年にベルナルディーノ・ルイーニの作品として売却され、ドイツの個人コレクションを経て、第二次世界大戦中にミラノの美術収集家の手に渡りました。1965年にニューヨークの美術商ウィルデンシュタイン・カンパニーによって購入され、シカゴ美術館に売却されました。

盗難未遂事件

1966年10月30日、この作品は盗難未遂事件に遭いました。過去に美術館から宝石や小規模な美術品が盗まれたことはありましたが、絵画が盗まれたのは初めてのことでした。しかし、匿名の通報によって、約17時間後に800メートル離れたグラント・パークのゴミ箱から無事に回収されました。発見時、絵画は紙で包まれ紐で縛られた状態でした。

回収された絵画は、オリジナルの支持体が割れ、聖母の首に擦り傷が見られましたが、修復を経て現在は良好な状態を保っています。

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