聖母子と聖ドロテア、聖ゲオルギウス

『聖母子と聖ドロテア、聖ゲオルギウス』

盛期ルネサンスの巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1516年から1518年頃に制作した油彩画です。この作品は、聖母マリアと幼子イエスを中心に、聖ドロテアと聖ゲオルギウスを描いた聖会話です。17世紀から18世紀にかけてはジョルジョーネの作品と考えられていましたが、現在ではティツィアーノの作品であるという点でほぼ異論はありません。スペインのマドリードにあるプラド美術館に所蔵されています。

作品の特徴

ティツィアーノは、横長の画面に聖母子と聖人たちをヴェネツィア派の特徴である半身像で描いています。画面右側には、幼子イエスを膝に抱く聖母マリアが座っています。その左側には、バラの花をキリストに捧げる聖ドロテアが描かれており、キリストは聖母を見上げながらも身を乗り出してバラに手を伸ばしています。聖ドロテアは殉教した聖人で、バラの花や果物が入った篭を持つ姿で描かれることが多いです。

聖ドロテアの後ろには、竜退治で有名な聖ゲオルギウスが黒い鎧を身に着け、槍を持って立っています。ティツィアーノは、聖ドロテアを『聖母子と聖カタリナ、聖ドミニクス、寄進者』の聖カタリナや『ヴィオランテ』と同じ女性モデルで描いている点が興味深いです。また、聖ゲオルギウスは『聖マルコの即位』に描かれた聖ロクスと似ています。

構図は従来の聖会話に比べて動的で複雑です。ティツィアーノは聖母子を画面中央に配置するという伝統的な構図を避け、左右に分かれる緑のカーテンによって画面全体に動きを与えています。聖母子は画面右側の前景に配置され、左側の聖人たちは背後から空間に入ってくるような印象を与えます。

この作品は、ティツィアーノの初期の作品として、図像、帰属、制作年について多くの議論があります。男性の聖人は通常聖ゲオルギウスとされますが、聖ブリギットの夫である聖フルフォである可能性も指摘されています。女性の聖人も聖カタリナとされることがありますが、聖ドロテアのアトリビュートであるバラの篭が描かれているため、聖ドロテアである可能性が高いです。

制作年代は、1505年から1520年の間で諸説あります。美術史家ゲオルク・グロナウは『聖マルコの即位』と聖ゲオルギウスの類似性から1505年としましたが、『聖マルコの即位』は最近では1511年から1512年の作とされています。そのため、本作品の制作年についても多くの研究者はもっと遅いと考えており、1515年から1520年頃とする説が有力です。これらの類似性は、ティツィアーノの初期作品群の複雑さを示唆しており、1516年以降にティツィアーノが使い始めた半身像の形式も考慮に入れる必要があります。

来歴

本作品の最初の所有者はスペイン国王フェリペ2世です。それ以前の来歴は不明で、フェリペ2世がティツィアーノの初期の絵画を入手した経緯もはっきりしていません。フェリペ2世は晩年のティツィアーノの芸術に衰えが見られた時期に、画家の初期作品に関心を持った可能性があります。

絵画は1593年にはマドリードにあり、フェリペ2世はそれをエスコリアルに送りました。この時点ではティツィアーノの作品とされていましたが、1626年以降はジョルジョーネの作品と見なされるようになり、1839年にプラド美術館に収蔵された後もその見解が続いていました。しかし、1877年に美術評論家ジョヴァンニ・バティスタ・カヴァルカゼルと美術史家ジョゼフ・アーチャー・クロウによって、ティツィアーノの作品として再評価されました。

影響

本作品の高品質な複製がティツィアーノの追随者によって制作されており、イギリスのロイヤル・コレクションに所蔵されています。この複製は、幼いキリストのポーズ以外は本作品を忠実に模倣しています。来歴は不明ですが、国王チャールズ1世によって購入された可能性が高いと考えられています。

ギャラリー

同じモデルを使用したとされる作品には以下のものがあります。

『聖母子と聖カタリナ、聖ドミニクス、寄進者』
『ヴィオランテ』

脚注

プラド美術館公式サイト

ロイヤル・コレクション公式サイト

参考文献

* イアン・G・ケネディー『ティツィアーノ』、Taschen（2009年）

もう一度検索