聖職禄

聖職禄（せいしょくろく）

聖職禄とは、カトリック教会において、特定の教会における務めや地位に付随して、教会の財産（土地などの所領や、信徒からの奉納物など）から安定した収益を得る権利、あるいはその権利に基づいて実際に得られる収入そのものを指す言葉です。ラテン語では「ベネフィキウム（beneficium）」と呼ばれます。

「ベネフィキウム」という言葉は、「良き（bene）」と「行い（facio）」というラテン語の合成語に由来します。この語はもともと、中世ヨーロッパの封建制度において、君主が臣下からの忠実な奉仕に対して褒美として与えた土地や財産などのことを意味していました。教会における聖職禄も、この世俗的なベネフィキウムと同様に、職務に対する一種の報酬として捉えられる側面がありました。

聖職禄の起源については、いくつかの説が存在します。一つは、初期の教会において、地方の小さな教区で働く聖職者への生活費を賄うための報酬制度から発展したという説です。もう一つは、貴族などが私的に設立・所有する教会（私有教会）において、その維持や聖職者の給与を保証するための制度に端を発するという説もあります。

中世ヨーロッパに入ると、聖職禄は時に本来の教会での務めとは切り離されて扱われるようになりました。特定の教会職に就いていない、あるいは世俗の人物に対して、一種の財産や権益として聖職禄が付与される事例も見られるようになります。これは、教会の職位やそこから得られる収入が、世俗の権力争いや利権の対象となるような状況を生み出す要因ともなりました。このような状況は、シモニア（聖職売買）などの問題とも関連して、教会の腐敗の一因として批判されることもありました。

近代になり、カトリック教会は聖職禄制度の見直しを進めます。特に、1962年から1965年にかけて開催された第2バチカン公会議では、教会の務め（職務）こそが最も重要であり、聖職禄はあくまでその務めを遂行するための付随的なものに過ぎないという原則が改めて確認されました。そして、聖職禄という古い形態を廃止するか、抜本的に改革する方針が打ち出されました。この会議では、聖職者の生活は聖職禄ではなく、現代的な基金制度や社会保険のような仕組みによって安定的に支えられるべきであるという考え方が示されました。

現在では、聖職禄という制度の大部分は廃止または改革されています。しかし、完全に消滅したわけではありません。現在のカトリック教会法にも、聖職禄に関する規定（例えば第1272条、第1274条など）が一部残されています。そして、特に地方にある小さな教区など、特定の状況においては、今なおこの聖職禄の規定に基づいて、そこで働く聖職者に対して生活費などが支給されている例も存在します。これは、制度の歴史的な経緯と、現代社会における教会運営の現実を踏まえた措置と言えるでしょう。総じて、聖職禄は教会の歴史、特に教会経済や聖職者の生活を理解する上で重要な概念です。

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