シモニア

シモニア（聖職売買）とは

シモニア（Simony）とは、金銭やその他の対価と引き換えに聖職者の位階や霊的な事物を取り引きする行為を指します。日本語では「聖職売買」と訳されますが、必ずしも聖職の売買に限定されるものではありません。この言葉は、新約聖書に登場する魔術師シモンが、使徒ペテロに金銭を提供して聖霊の力を得ようとしたことに由来します。

定義

中世の神学者トマス・アクィナスは、シモニアを「霊的なもの、または霊的なものと一体化しているものを故意に売買すること」と定義しました。具体的には、聖務職、秘跡、教会裁治権などの霊的なもの、聖職禄といった霊的なものと不可分なもの、聖別された事物といった霊的なものが実体化したものを、金銭、推薦、力添え、口添えなどの世俗的な利益と交換する意思や行為がシモニアの罪とされました。聖遺物やその容器の取引もシモニアとみなされます。

シモニアの分類

シモニアは、対価の種類によって以下の3つに分類できます。

物品の授受（munus a manu）: 金銭、動産、不動産などの有形資産を得ること。
便宜や好意の供与（munus a lingua）: 口頭による賞与や許認可の表現。
隷属的奉仕または尽力（munus a obsequio）: 卑屈な態度や過度な奉仕を行うこと。

歴史

シモニアは、キリスト教の歴史の中で繰り返し問題とされてきました。

初期: 4世紀初頭、教会に富と権力が集中するようになり、聖職位や秘跡が取引されるようになりました。306年のエルビラ教会会議では、洗礼に際しての金銭授受が禁止されました。また、451年のカルケドン公会議でも、霊的祝福に対する金銭授受の禁止が確認されました。
中世: 教皇グレゴリウス1世はシモニアを異端と規定し、行った聖職者を破門しました。787年の第2ニカイア公会議では、魔術師シモンの名を挙げて金銭授受を強く非難しました。カロリング朝時代にもシモニア禁令が繰り返し発布されましたが、私有教会制の普及などにより、完全には根絶されませんでした。クリュニー[[修道院]]は、世俗権力からの独立を追求し、聖俗両界から支持を得ました。叙任権闘争の過程で、シモニアの規定はより明確かつ厳密になりました。11世紀には、シモニアは涜聖とみなされるようになり、シモニアによって得られた聖職位や秘跡は無効とされました。しかし、ペトルス・ダミアニは、一度行われた秘跡は有効であると主張しました。教皇レオ9世などは、秘跡を行う人物の資質を重視しました。1046年には、神聖ローマ皇帝ハインリヒ3世が教会会議を開催し、教皇位を争っていた3人を廃位させ、クレメンス2世を即位させました。この際、グレゴリウス6世は金銭で教皇座を得たとして非難されました。1059年には教皇選挙が確立され、俗人からの影響が排除されるようになりました。1073年に教皇に就任したグレゴリウス7世は、俗人による聖職叙任を徹底的に禁止し、この流れは1122年のヴォルムス協約で結実しました。しかし、シモニアはその後も行われ、1215年の第4ラテラン公会議でも非難されました。
近世: 1[[4世紀]]には、ダンテが『神曲』でシモニアを行った教皇を地獄に堕ちる者として描きました。マキャヴェッリやエラスムスもシモニアを批判しました。1[[4世紀]]には、聖職禄取得納金や聖職候補者納金という新たな形のシモニアが横行しました。16世紀には、贖宥状が金銭で売買されることがシモニアとみなされ、宗教改革の一因となりました。イングランド国教会は、聖職者の任命時にシモニアでないことを誓約するよう定めています。

現代のシモニア

現代でも、シモニアは重大な問題として認識されています。第264代ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は、教皇選挙におけるシモニアを重大な罪とし、関与した者を破門するとしました。

シモニアは、教会の腐敗を象徴する行為であり、聖職者の倫理観や信仰に対する信頼を損なうものです。歴史を通じて繰り返し非難されてきましたが、その根絶は容易ではありませんでした。現代においても、その教訓は重要であり、教会は常にシモニアに対する警戒を怠るべきではありません。

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