職務著作

職務著作権：雇用主と著作者の権利をめぐる複雑な関係

職務著作権とは、雇用関係や委託契約に基づき創作された著作物の著作権帰属に関する法律上の概念です。従業員やフリーランスが職務の一環として制作した作品について、その著作権が誰に帰属するのかを定めるものです。一般的には、個人が著作物を創作すれば、その個人に著作権が発生する「原始的帰属」が原則ですが、職務著作の場合、この原則が例外的に適用されません。

職務著作の条件

職務著作権の適用には、いくつかの条件が満たされる必要があります。これらの条件は、国や地域によって異なり、また裁判例によって解釈も変化します。一般的な論点としては以下のようなものがあります。

職務範囲の解釈: フルタイムの従業員だけでなく、フリーランスなどの外部委託者も職務著作の対象となるかどうか。
雇用主の関与: 創作過程における雇用主の関与度合い（企画立案、費用負担、監督など）が、職務著作の成立にどのような影響を与えるのか。
合意の必要性: 職務著作を認めるには、雇用主と従業員の間で書面による明示的な合意が必要なのか、それとも黙示の合意で十分なのか。
権利の帰属: 職務著作の権利は雇用主に単独で帰属するのか、それとも従業員との共同著作となるのか。
著作物ジャンル: 映画やコンピュータプログラムなど、特定のジャンルにおいては、職務著作に関する個別規定が存在するかどうか。

各国の法体系と職務著作

世界の法体系は大きく分けて大陸法と英米法に分類され、職務著作の取扱いにも違いが見られます。

大陸法諸国（フランス、ドイツなど）では、著作権は個人の権利と捉えられ、職務著作の範囲は狭く解釈される傾向があります。一方、英米法諸国（アメリカ、イギリスなど）では、産業の発展を重視する功利主義的な考え方が強く、職務著作が比較的広く認められる傾向があります。

しかし、各国の法律や判例は多様性に富み、一概に大陸法諸国が個人優位、英米法諸国が雇用主優位と断言することはできません。

著作権の保護範囲と職務著作

職務著作の場合、保護される権利の範囲も通常とは異なります。

保護期間: 原始的帰属の場合、著作者の死後50～70年間とされることが多いですが、職務著作では著作物の公表日を基準に保護期間が定められます。
* 著作者人格権: 氏名表示権を除き、職務著作には著作者人格権が認められないことが多いです。

各国の職務著作に関する法令と判例

アメリカ合衆国

アメリカの著作権法は、従業員による創作と注文・委託による創作を区別し、それぞれ異なる基準を設けています。特に、1989年のCCNV判決は、独立契約者による創作物については、委託元が十分な著作者性に寄与している場合を除き、職務著作を認めないと判断しました。

カナダ

カナダは英米法系ですが、新聞、雑誌などの定期刊行物に関しては、職務著作ではなく個人が著作権を有すると規定しています。

欧州連合

EUは、コンピュータプログラムなどについて、職務著作に関する指令を出していますが、その他の著作物については加盟国ごとの規定に委ねられています。

フランス

フランスは、原則として個人が著作権を有するとしますが、集合著作物（新聞、雑誌など）については、職務著作が認められています。2009年の法改正では、ジャーナリストの著作物に関する権利関係が詳細に規定されました。

ドイツ

ドイツも個人への原始的帰属を原則としますが、一定条件下で職務著作を認めています。

イギリス

イギリスは英米法系ですが、著作財産権については職務著作を認める一方、著作者人格権については個人に残すと規定しています。

日本

日本の著作権法では、職務著作の条件として、発意性、業務従事者性、職務上創作性、名義公表性、作成時特約不在性を挙げていますが、これらの条件が全て揃っても職務著作が認められるとは限りません。2003年のRGBアドベンチャー事件判決は、職務著作の判断基準を示す重要な判例となっています。

中国

中国は、職務著作においては創作した個人に著作権が帰属するのを原則としており、雇用主への著作権帰属は例外的なケースに限定されています。

結論

職務著作は、複雑な法的概念であり、その適用は、国の法体系、具体的な契約関係、創作物の性質、そして裁判例の解釈など、様々な要素に依存します。本稿では、職務著作に関する基本的な理解を深めるための情報を提供することを目的としています。具体的なケースにおける著作権の帰属については、専門家の助言を求めることが重要です。

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