肉の蝋人形 (1953年の映画)

蝋人形の館の恐怖：1953年版『肉の蝋人形』

1953年、アメリカで公開されたホラー映画『肉の蝋人形』(House of Wax)は、3D映画ブームの象徴として、そして後世に残るホラー映画の傑作として名高い作品です。アンドレ・ド・トス監督、ヴィンセント・プライス主演という豪華な顔ぶれも話題を呼びました。

本作は、チャールズ・ベルデンの戯曲を原作とし、1933年の同名映画のリメイク作品にあたります。特筆すべきは、当時としては画期的な3D立体映画として公開された点です。偏光フィルターを使用した3Dメガネをかけて鑑賞する方式で、1950年代前半の3D映画ブームを牽引する最大のヒット作となりました。その高い芸術性と文化的価値から、2014年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録されています。

狂気に染まった蝋人形師の復讐劇

物語の中心は、蝋人形製作に並々ならぬ情熱を注ぐヘンリー・ジャロッド教授です。しかし、彼の蝋人形館に投資していたバークが、保険金目当てに館を焼き払ってしまいます。この出来事が、ジャロッド教授の復讐劇の始まりでした。

火災で多くの蝋人形を失ったジャロッドは、重傷を負いながらも生き延びていました。バークへの復讐心は、次第にエスカレート。復讐だけでは満足できなくなった彼は、さらなる狂気に突き進んでいきます。それは、生きた人間を蝋人形に変えてしまうという、恐るべき悪行でした。

ジャロッドは、新たな蝋人形館を作り上げます。しかし、そこにはかつての芸術性は全くなく、拷問や処刑の場面を再現した、生々しい蝋人形が並べられていました。そして、復讐の対象であるバークも、蝋人形として展示されています。

この蝋人形館を訪れたスーという女性は、ある蝋人形が、謎の怪人に殺された友人とそっくりであることに気づきます。彼女はこの不気味な館に不信感を抱き始めます。一方、ジャロッドは、スーが過去の傑作「マリー・アントワネット」の蝋人形と似ていることに気づき、彼女を新たな蝋人形として手に入れようと企みます。

技術的にも革新的な作品

『肉の蝋人形』は、ストーリーだけでなく、技術面でも当時の映画界に大きな影響を与えました。撮影には、三色テクニカラー方式が用いられ、左目用と右目用の映像を別々に撮影、合成するという複雑な工程を経て完成しました。Blu-ray Discのデジタル修復作業では、35mmネガフィルムを4K解像度で6回スキャンし、それぞれ修復するという、気の遠くなるような作業が行われたそうです。

また、音響も当時の技術を駆使した立体音響となっており、映写機と同期運転する3トラック磁気フィルムと光学サウンドトラックによる4チャンネル立体音響を実現しました。ただし、当時の設備の普及状況から、多くの劇場ではモノラルでの上映となり、真の立体音響を体験できたのは一部の劇場に限られていたようです。

継承される恐怖

『肉の蝋人形』は、その後も幾度かリメイクされ、その恐怖は現代にまで受け継がれています。2005年にはリメイク作品が公開され、新たな形で観客を恐怖の世界へ誘いました。

ヴィンセント・プライスを始めとする豪華なキャスト陣の演技、革新的な3D技術、そして狂気に満ちたストーリー。様々な要素が絡み合い、他に類を見ないホラー映画として、『肉の蝋人形』は映画史にその名を刻み込みました。

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