ヴィンセント・プライス

ヴィンセント・プライス：ホラー映画の帝王とその多彩な人生

ヴィンセント・プライス（1911年5月27日-1993年10月25日）は、20世紀を代表するアメリカ人俳優の一人であり、特に戦後のアメリカにおける古典ホラー映画のスターとして知られています。その独特の美声とカリスマ性で観客を魅了し、イギリスのピーター・カッシング、クリストファー・リーと共に「三大怪奇スター」と称えられるほどの地位を築きました。

裕福な家庭での生い立ちと芸術への情熱

ミズーリ州セントルイスの裕福な家庭に生まれたプライスは、ベーキングパウダーを発明した祖父と製菓会社の社長である父親を持つ恵まれた環境で育ちました。イェール大学では美術史と芸術を専攻し、芸術への深い造詣を培いました。コートールド・インスティテュートなどの会員となるなど、芸術への情熱は生涯にわたって彼を支え続けました。

幅広い役柄とホラー映画での成功

1935年の舞台デビュー後、1938年に映画デビューを果たしたプライスは、1940年代にはドラマ、コメディ、そしてホラーと、幅広いジャンルで活躍しました。ラジオ出演も経験するなど、マルチな才能を発揮していました。1950年代に入ると、ホラー映画への出演が増え始め、1953年のカラー3D映画『肉の蝋人形』の大ヒットにより、ホラー界のスターとしての地位を確立します。『ハエ男の恐怖』（1958年）、『ハエ男の逆襲』（1959年）などの作品でも高い人気を獲得しました。

エドガー・アラン・ポー作品への主演と絶頂期

プライスのキャリアの頂点と言えるのが、1960年代初頭からのエドガー・アラン・ポー作品を原作とするホラー映画シリーズへの主演です。AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)製作、ロジャー・コーマン監督によるこのシリーズで、プライスはボリス・カーロフ、ロン・チェイニー・ジュニア、ピーター・ローレ、ベイジル・ラスボーンといったホラー映画界のレジェンドたちと共演を果たしますが、常に主演の座を射止め、ホラー映画界のトップスターとして君臨しました。このシリーズでの彼の演技は、独特の雰囲気と存在感を放ち、多くのファンを魅了しました。

多彩な才能と晩年の活躍

プライスは、ホラー映画だけでなく、コメディにも挑戦するなど、幅広い演技力を持っていました。例えば、『ビキニマシン』(1965年)では、ポーシリーズとは対照的なコメディ演技を見せ、彼の懐の広さを感じさせます。1970年代以降もホラー映画の大御所として活躍し、『怪人ドクター・ファイブス』(1971年)とその続編はカルト的な人気を誇ります。また、ピーター・カッシングやクリストファー・リーといったイギリスの怪奇スターとの共演も果たし、国際的な活躍も見せました。ホラー以外の作品にも出演しており、『八月の鯨』(1987年)ではリリアン・ギッシュ、ベティ・デイビスと共演しています。

美声と声の仕事、そしてティム・バートンとの関係

プライスの美声は、声優としても高く評価されました。マイケル・ジャクソンの代表曲『スリラー』(1982年)のナレーションを務めたことは、広く知られています。また、ティム・バートン監督はプライスの熱烈なファンとして有名であり、バートン監督作品への出演や、プライスをモデルにした短編アニメ『ヴィンセント』(1982年)への参加など、二人の関係は深く、プライスの遺作となった『シザーハンズ』(1990年)での共演は、映画史に残るエピソードとなっています。

プライベートと遺産

プライスは3度の結婚を経験し、料理に精通し、料理本を出版するなど、多様な才能を持つ人物でした。美術品収集家としても有名で、レンブラント、ピカソ、サルバドール・ダリなどの作品を所蔵していたと伝えられています。

ヴィンセント・プライスは、単なるホラー俳優としてだけでなく、多才な文化人、そして個性豊かな俳優として、映画史に大きな足跡を残しました。彼の独特の魅力と才能は、現代においても多くのファンを魅了し続けています。

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