育児嚢

育児嚢とは

育児嚢とは、主に有袋類の雌に見られる、未熟な仔を育てるための袋のことです。有袋類という名前も、この袋（ラテン語でMarsupium）に由来します。

しかし、育児嚢と呼ばれる器官は、哺乳類だけのものではありません。ヨウジウオ科の雄の魚（タツノオトシゴなど）、二枚貝、タニシなど、多様な生物にも見られます。

哺乳類の育児嚢

哺乳類は、大きく分けて単孔類、有袋類、有胎盤類の3つのグループに分けられます。

有袋類：カンガルーのように、腹部にある育児嚢で未熟な仔を育てる哺乳類です。
有胎盤類：胎盤を持ち、子宮内で胎児を育ててから出産する哺乳類です。
単孔類：カモノハシやハリモグラのように、卵を産む哺乳類です。

有袋類と有胎盤類は、合わせて「胎生哺乳類」と呼ばれます。ゲノム解析によると、単孔類と胎生哺乳類は約1億8760万年前のジュラ紀に分岐したと考えられています。

ハリモグラは単孔類ですが、下腹部に袋状の育児嚢（仮育児嚢とも呼ばれます）を持っています。

有袋類の育児嚢

生まれたばかりの有袋類の新生仔（ジョーイ）は、産道から育児嚢まで自力で這って移動します。育児嚢は、基本的に乳首の周囲の皮膚が畳み込まれた構造で、入り口は一つしかありません。この中で、仔は乳首に吸い付いて成長します。

育児嚢の形状や機能は、種によって異なります。

タスマニアデビル：育児嚢は後ろ向きに開いており、新生仔の移動距離が短くて済みます。仔は乳首に吸い付いたまま離れず、成長して一度外に出ると二度と戻ることはありません。
カンガルーやワラビー：育児嚢は体の前面に水平に開いており、新生仔は比較的長い距離を這わなければなりません。仔は外に出られるほど成長しても、しばらくの間は育児嚢に出入りしながら成長します。カンガルーの場合、生後6か月から8か月の間は袋の中で育ち、その後も出入りを繰り返します。

ただし、フクロアリクイのように、すべての有袋類が育児嚢を持っているわけではありません。

魚類の育児嚢

魚類では、ヨウジウオ科の雄が育児嚢を持っています。

ヨウジウオ科の魚に見られる育児嚢の形態は、種によって異なります。

トゲヨウジ：原始的な育児嚢で、腹部に卵を付着させるだけです。
* タツノオトシゴ：袋状に発達した育児嚢を持ち、雌から卵を受け取って孵化させ、完全に独立できるまでの数週間、保護します。

育児嚢は、生物が子孫を育てるための多様な戦略を示す、興味深い器官です。

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