肺炎球菌ワクチン

肺炎球菌ワクチンとは

肺炎球菌ワクチンは、肺炎や髄膜炎、敗血症など、重篤な感染症を引き起こす細菌である肺炎レンサ球菌（Streptococcus pneumoniae）に対する予防接種です。このワクチンを接種することで、これらの感染症の発症や重症化を予防する効果が期待できます。

ワクチンの種類

肺炎球菌ワクチンには、主に二つの種類が存在します。

1. 結合型ワクチン（PCV - Pneumococcal conjugate vaccine）：特定の肺炎球菌の成分に、免疫反応を高めるためのタンパク質を結合させたワクチンです。乳幼児や免疫機能が十分でない方にも有効であることが特徴です。
2. 多糖体ワクチン（PPV - Pneumococcal polysaccharide vaccine）：肺炎球菌の外側にある莢膜（きょうまく）を構成する多糖体を主成分とするワクチンです。主に健康な成人や高齢者を対象としますが、2歳未満の乳幼児や免疫機能が著しく低下している方には効果が得られにくいとされています。

接種方法は、通常、筋肉内または皮下への注射によって行われます。

歴史と日本での展開

肺炎球菌ワクチンの開発は古く、1927年に米国で始まり、1940年代には実用化されました。薬剤耐性菌の出現などを背景に、標的とする血清型（肺炎球菌には多くの型があります）を増やしたワクチンが開発され、1977年に14価、1983年には23価の多糖体ワクチン（PPV23）が登場しました。日本においては、PPV23が1988年に承認され、2014年からは65歳以上の高齢者などを対象とした定期接種が開始されています。

一方、多糖体ワクチンでは十分な免疫反応が得られなかった乳幼児向けのワクチンとして、結合型ワクチンの開発が進みました。これはHibワクチンで確立された技術を応用したもので、2000年には米国で7価の結合型ワクチン（PCV7）が承認され、対象となる血清型による感染症が劇的に減少しました。日本には2010年にPCV7が導入され、2013年にはより多くの血清型に対応した13価の結合型ワクチン（PCV13）に切り替わりました。その後も、2024年4月からは15価の結合型ワクチン（PCV15）が小児の定期接種に導入され、さらに20価の結合型ワクチン（PCV20）も承認されるなど、対応できる血清型の拡充が進んでいます。

有効性

肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌による侵襲性感染症（菌が血液や髄液に入り込む重篤な状態）や肺炎の予防に有効であることが多くの研究で示されています。

結合型ワクチン（PCV）は、特に乳幼児における侵襲性肺炎球菌感染症や肺炎の予防に効果的であるとされています。日本国内でも、PCVの定期接種導入後、5歳未満の子供における侵襲性肺炎球菌感染症の罹患率が大幅に減少したことが報告されています。

多糖体ワクチン（PPV）も、成人における侵襲性肺炎球菌感染症の予防効果が認められています。しかし、対象とする全ての肺炎に対する効果については、さらなる検証が必要とされています。

ワクチンの導入は、接種が進んだ血清型による感染症を減少させる一方で、ワクチンに含まれない他の血清型による感染が増加する「血清型置換」と呼ばれる現象や、薬剤耐性を持つ菌が出現する可能性も指摘されており、引き続き動向が注視されています。

安全性と副反応

肺炎球菌ワクチンは、世界保健機関（WHO）の必須医薬品リストにも記載されており、一般的に安全性の高い医薬品とされています。ワクチン接種後に見られる主な副反応は、接種部位の痛みや腫れ、赤みといった局所的なものや、発熱、不機嫌、眠り方の変化などです。

特に結合型ワクチンを接種した乳幼児では、接種部位の赤みや腫れは約半数に見られ、そのうち約8%で比較的重い反応となることがあります。発熱（38度以上）は約24〜35%に生じるとされています。熱性けいれんは稀な副反応ですが、PCV単独接種では約6,000人から83,000人に1人、インフルエンザワクチンとの同時接種では約2,000人から21,000人に1人の割合で報告されています。重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーは非常に稀ですが、発生する可能性があります。

まとめ

肺炎球菌ワクチンは、肺炎レンサ球菌による重篤な疾患から人々を守るために重要な役割を果たしています。特に乳幼児や高齢者、免疫機能が低下している方にとって、このワクチンは健康を守るための有効な手段の一つであり、世界的に広く推奨されています。ワクチンの改良や接種対象の拡大が進む一方で、血清型置換といった課題への対応も求められています。

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参考文献

世界保健機関 (WHO) 情報
日本における肺炎球菌ワクチン関連情報
コクランレビュー
各ワクチンの添付文書情報

関連項目

予防接種
肺炎
髄膜炎
敗血症
肺炎レンサ球菌
Hibワクチン

_(注: 本文中の予防効果や副反応の頻度などは、研究や地域、対象年齢などによって異なる場合があります。)_

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