胸背神経

胸背神経 (Thoracodorsal nerve)

胸背神経は、腕神経叢の後神経束から分岐する末梢神経であり、主に広背筋の運動を司る重要な役割を担っています。この神経は、第6～8頚神経根からの神経線維を含んでいますが、その主要な根は第7頚神経根に由来します。

走行

腕神経叢から分岐した後、胸背神経は下方および側方へと走行します。その過程で、胸背動脈および胸背静脈と並走するようになり、広背筋へと到達して分布します。一部の症例（約13%）では、大円筋にも分布することが報告されています。

臨床的意義

胸背神経は、その解剖学的特徴から、再建外科において重要な役割を果たします。

再建外科における応用

広背筋に分布する手前の5～10cmの区間では、動脈、静脈、神経が一体となった「神経血管茎」と呼ばれる構造を形成しています。この神経血管茎を利用することで、広背筋とその血管、神経をまとめて採取し、他の部位へ移植することが可能になります。

乳房再建

有茎広背筋皮弁による乳房再建は、乳がん手術後の乳房再建術として広く普及しています。この手術では、広背筋の一部を皮膚や脂肪組織とともに採取し、神経血管茎を温存したまま乳房の位置に移動させます。これにより、血流が維持された状態で乳房の形態を再建することができます。

顔面神経麻痺の治療

胸背神経は比較的長く採取できるため、顔面神経麻痺に対する笑いの表情の再建にも利用されています。麻痺した顔面筋に胸背神経を移植することで、表情筋の機能を回復させることが期待できます。

その他の応用

胸背神経は、外陰部損傷や先天奇形、性転換のための陰茎再建など、様々な再建手術に応用されています。神経血管茎を利用することで、血流を確保しながら組織を移植し、機能的な再建を目指します。

胸背神経は、広背筋の運動を司るだけでなく、再建外科において多様な可能性を秘めた重要な神経です。

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