脇田信号場

埼玉県川越市に位置する西武鉄道新宿線の脇田信号場は、路線の運行管理上重要な役割を担う施設です。特に、当信号場を境として、都心方面からの複線区間と、終点である本川越駅へ向かう単線区間が切り替わる地点として機能しています。

設置の経緯

脇田信号場が設けられたのは、西武新宿線の輸送力増強に向けた複線化事業が進められていた時期にあたります。具体的には、1980年（昭和55年）3月12日、南大塚駅から本川越駅に至る区間のうち、南大塚駅側約2.7キロメートルにわたる区間が複線として供用を開始しました。この複線化工事の進捗に伴い、複線区間の終端であり、単線区間の起点となる場所に、列車交換や折り返しなどの信号扱いを行う施設として脇田信号場が新設されたのです。開設後も設備の近代化は進められ、翌年の1981年9月には、本川越駅までの約600メートル間に光ファイバーケーブルが敷設されました。これにより、信号場にはモニタカメラが設置されるなど、より高度な遠隔監視や制御が可能となり、運行の安全性や効率性の向上に貢献しました。

現在の構造と線路配置

現在の脇田信号場は、南大塚駅方面からは複線で線路が続いてきますが、信号場構内で単線に収束し、終点の本川越駅までの約0.9キロメートルの区間は単線運行となっています。西武新宿線の列車は、この信号場で列車交換を行うことがあります。

信号場付近では、西武新宿線の線路が、上空を通過するJR東日本川越線および東武東上線の線路を、それぞれの橋梁の下をくぐる形で交差しています。特に東武東上線の下を通過する部分は、将来の複線化計画における重要な課題となっています。

将来への展望と課題

脇田信号場から本川越駅までの約0.6キロメートルの区間については、西武鉄道は既に複線化のための事業認可を取得しています。しかしながら、この区間の複線化を実現するには、極めて困難な状況が立ちはだかっています。

その最大の要因は、先述のJR線および東武線が上を通るガード下の構造にあります。この部分では、現在のところ、道路2車線分と鉄道線路1本分に相当する限られた幅しか確保できていません。そして、この幅員不足の背景には、大正時代にあたる1914年に東上鉄道（現在の東武東上線）が建設された際に設けられた古い橋脚が、今もその姿をとどめていることが挙げられます。この歴史ある橋脚は、埼玉県の近代化遺産に指定されており、その保存が求められています。そのため、近代化遺産である橋脚周辺の用地を鉄道の複線化のために拡幅したり、構造を大規模に変更したりすることが非常に難しくなっています。こうした状況から、脇田信号場から本川越駅までの区間を複線とする具体的な見通しは、残念ながら現時点では立っていません。

また、過去にはこの脇田信号場周辺に新たな駅を設置するという構想も存在しました。これは、このエリアの利便性向上などを目的として検討されたものと考えられますが、具体的な計画の推進にあたっては、地域住民からの反対意見なども出され、結局この駅設置計画は実現には至りませんでした。

まとめ

脇田信号場は、西武新宿線の南大塚・本川越間における複線・単線の境界として、列車の安全かつ効率的な運行を支える役割を担っています。南大塚駅からの複線化進展に伴って開設されたこの信号場は、終点本川越駅までの残る単線区間の解消という将来的な目標を抱えつつも、歴史的な構造物や用地確保の困難といった課題に直面しています。駅設置計画が頓挫した過去もあり、この信号場が位置するエリアの発展や路線全体の輸送力強化に向けた道のりは、一筋縄ではいかない状況と言えるでしょう。

もう一度検索