脱走兵

脱走兵とは

脱走兵（英語：Deserter）とは、軍事用語で「その軍人が負うべき義務を放棄した者」を指します。これは単なる離隊とは異なり、二度と部隊に戻る意思を持っている点が特徴です。脱走は軍隊の秩序を根底から揺るがす行為であり、特に戦時における脱走は、部隊の戦闘能力を著しく低下させる重大な問題です。そのため、多くの国で脱走は厳しく処罰されます。

脱走の定義と影響

脱走（Desertion）は、任務を放棄して部隊を離れる行為であり、軍事組織における権威、規律、その他の統制を拒否することに他なりません。脱走は、単なる離隊よりも深刻な問題とされ、軍事行政上でも重く扱われます。戦闘中の敵前逃亡は、特に重大な違反とみなされ、職業軍人倫理に反する行為とされます。

脱走は、軍隊の士気低下、部隊の戦闘能力の低下、そして軍全体の規律崩壊につながる可能性があります。そのため、各国軍は脱走を防止するために様々な対策を講じています。

脱走抑止の要因

軍人と市民の分離が強固であるほど、兵士は脱走しにくいという研究結果があります。また、法的に処罰が準備されていることも、脱走の抑止に繋がると考えられています。歴史的には、鞭打ちや焼印などの厳しい刑罰が脱走抑止のために用いられたこともありました。

各国の脱走事例

アメリカ

アメリカ軍では、ベトナム戦争時に最も多くの脱走兵が出ました。1971年には、総兵力の3.4%に当たる33,094人が脱走しました。イラク戦争中にも多くの脱走兵が出ており、2003年と2004年の2年間で5,500人以上が脱走しています。アメリカ軍では、毎年全体の0.2～0.3％の脱走兵が出ており、そのうち58%は脱走途中で部隊に戻っています。脱走兵は、戦地だけでなく、アメリカ国内の基地や在日米軍基地でも発生しています。

アメリカ軍では、脱走兵として指名手配されるまでに30日を要します。ただし、重大事件を起こした場合は即時手配されます。脱走兵は、入隊直後の訓練期間中や、戦争開始直前、最前線へ配置転換される直前に多く発生する傾向があります。また、アメリカ海軍では、艦隊勤務になったばかりの新兵が最初に訪れる外国が日本の沖縄であることが多く、日本への寄港中はアメリカ海軍の脱走多発ポイントになっています。

脱走兵は、海軍犯罪捜査局などの捜査員に追跡され、逮捕されます。日本国内で脱走したアメリカ軍の脱走兵に関しては、日米地位協定に基づき、アメリカの捜査員が日本で逮捕権を行使できます。2008年には、脱走兵が起こした殺人事件が問題となり、脱走兵が日本で逃亡した場合に日本政府に通報を行うことになりました。しかし、脱走兵認定には30日を要するため、通報されるのは脱走から30日以上経過した後になり、その間、日本側が脱走兵の存在を把握できないという問題点があります。

イギリス

イギリス政府の統計によると、毎年2,600～3,000人の脱走兵が出ており、特にイラク戦争以降は増加傾向にあります。

2001年：2,670人
2002年：2,970人
2003年：2,825人
2004年：3,050人
2005年：2,725人

関連事項

戦闘ストレス反応
士気
軍事的リーダーシップ
部隊
戦闘力
戦闘効率
敵前逃亡
軍法会議
督戦隊
国家憲兵
野戦憲兵 (ドイツ)
兵役逃れ
良心的兵役拒否
D.P. -脱走兵追跡官-
脱走兵支援団体
Get Lost（ロシア語: Идите Лесом、ラテン文字化:Idite Lesom） - 2022年9月21日にジョージアで設立された徴兵逃れと脱走兵を国外に逃がす反戦慈善団体。
反戦脱走米兵援助日本技術委員会（JATEC） - ベトナム戦争でのアメリカ脱走兵支援団体。

参考資料

Henderson, W. D. 1985. Cohesion: The human element in combat. Washington, D.C.: National Defense Univ. Press.
Hicken, V. 1969. The American fighting man. New York: Macmillan.
* Forest, A. 1989. Conscripts and deserters: The army and French society during the Revolution and Empire. New York: Oxford Univ. Press.

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