腕木通信

腕木通信とは

腕木通信（うでぎつうしん）は、18世紀末から19世紀半ばにかけて主にフランスで使用されていた視覚通信技術です。当時はテレグラフ（telegraph）と呼ばれ、視覚的な信号を用いて情報を伝達する重要な手段でした。具体的には、腕木と呼ばれる数本の棒を動かし、その形を望遠鏡で読み取ることで情報を伝える方式でした。

歴史的背景

この通信技術は、1793年にクロード・シャップによって発明されました。シャップは技術的な開発において、著名な時計師アブラアム＝ルイ・ブレゲの助けを得て、腕木の精密な動作を可能にしました。19世紀の初め、美しい機械が動くことで情報が瞬時に伝達される様子は、多くの人々に驚きを与えました。

腕木通信は、基本的に大型の手旗信号による通信と考えることができます。数メートルの腕木をロープで操作し、その情報を中継局に設置された望遠鏡で確認することにより、情報を迅速に転送できました。夜間には、腕木に灯りを灯して信号を送る工夫も見られました。驚くべきことに、この方法で1分間に80km以上の速度で信号を伝達することができ、短いメッセージを効果的に送信できる能力がありました。

技術の発展

シャップによる改良型の機構では、腕木が92の異なるパターンを示すことが可能だったため、実質的に8,464通りのメッセージを伝えることができました。公開試験においては、28語を11分で送信することに成功し、その可能性は確実なものとして認識されました。フランス革命を背景に、軍事用途としてもその価値が高まり、短期間で通信網の整備が進みました。

その後、ナポレオン時代においても、シャップの通信網は大いに活用され、1819年にはパリからブレストの551kmを、わずか8分で情報を伝えられるようになりました。このように、腕木通信は政府の公式な通信手段としてだけでなく、民間の需要にも応じて発展しました。

衰退と海外への影響

しかし、腕木通信は常駐要員が必要であり、悪天候時には使用できない弱点がありました。このため、1840年代以降に登場したモールス信号を利用した有線電信に取って代わられることとなりました。1880年代にスウェーデンの離島で最後の使用例が確認されるまで、腕木通信は急速に衰退しました。

フランス通信社の創業者、シャルル＝ルイ・アヴァスは、腕木通信で得た情報を元に、どこよりも早い新聞速報を出すことで成功を収めました。この過程で、どのようにして解読していたかは詳細に残されていません。

日本における状況

興味深いことに、腕木通信は日本ではほとんど導入されませんでした。日本では、江戸時代から旗振り通信と呼ばれる大型の手旗信号を利用した通信が存在し、情報の即時配信が достиг無されていました。幕末から明治維新期には、すでに腕木通信が過去の技術となり、代わりに電信が導入されました。この結果、日本では視覚通信として旗振り通信が主流のままであり続けたのです。

腕木通信は、その歴史的な意義と技術革新によって、通信の発展に多大な影響を与えましたが、次第にその姿は消えていきました。

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