臓卜師

臓卜師とは

臓卜師（ぞうぼくし、ラテン語: haruspex）とは、古代エトルリアに起源を持つ、動物の内臓、特に肝臓を用いて神々の意志や予兆を読み取る占い師のことです。彼らは単なる占い師ではなく、宗教的な知識や儀式にも精通した専門家でした。エトルリアの宗教教典『エトルスキ教典』を深く理解し、神々の意向を解釈することで、国家の意思決定にも影響を与えました。

エトルリアにおける臓卜師

『エトルスキ教典』は、『臓卜の書』、『雷電の書』、『儀式の書』の3つで構成されており、臓卜師はこれらの教典を習得していました。『臓卜の書』では、生贄の内臓から神意を読み解き、『雷電の書』では、雷の解釈を通じて神の意志を理解しました。そして『儀式の書』は、彗星や奇形の誕生など、自然現象の解釈を扱いました。臓卜師は、内臓だけでなく、様々な兆候を総合的に判断する能力を持っていました。

エトルリア社会において、臓卜師は最高位の貴族階級に属し、教典を秘蔵し、代々その知識を伝えていました。彼らは、特徴的な衣装として、生け贄の革で作られた丈の短いアウターウェアを着用し、先の尖ったベレー帽を被っていました。これらの衣装は、臓卜師の象徴として墓にも描かれました。

臓卜師は、内臓の形状や色、細かい部位の意味を深く理解し、神々に応じた儀式や祭祀を執り行いました。彼らは、雷の種類や自然現象から神意を判断し、それに基づいた対策を提示しました。臓卜の習得には長い年月が必要とされ、その責任は非常に大きかったため、政務には直接関与しなかったと考えられています。

ローマにおける臓卜師

古代ローマでは、鳥卜を行うアウグルが存在しましたが、彼らの占いは神の賛否を問うもので、幅広い現象の解釈には不向きでした。そのため、共和政ローマがエトルリアを支配下に置くと、元老院はエトルリアの臓卜師を重用し、『エトルスキ教典』をラテン語に翻訳し、臓卜師団を編成しました。

当初、臓卜師の仕事は一時縮小しましたが、ローマが領土を拡大するにつれて、その需要も拡大しました。紀元前2世紀には、臓卜師の養成が急務となり、肝臓の模型が用いられたとも考えられています。共和政後期には、個人で臓卜師を雇う有力者も現れ、帝政ローマ時代には、皇帝に仕える臓卜師や、ローマ軍団に同行する臓卜師もいました。

紀元前1世紀の同盟市戦争の結果、エトルリア人にもローマ市民権が付与されると、エトルリア語の使用は徐々に衰退し、臓卜師はエトルリアの占い師から、ローマの占い師へと変化しました。また、技術さえあれば、エトルリア出身でなくても臓卜師になれるようになりました。

臓卜師の衰退

帝政期に入り、キリスト教が台頭すると、エトルリア宗教はキリスト教に対抗する存在として注目されました。ラクタンティウスによれば、ディオクレティアヌスの行ったキリスト教の大迫害は、臓卜師の勧めによるものとされています。しかし、テオドシウス1世によるキリスト教の国教化により、臓卜師は禁止され、その役割を終えることとなりました。

臓卜師は、古代社会において重要な役割を担っていましたが、宗教的な変遷の中でその姿を消すこととなりました。彼らの歴史は、古代ローマとエトルリアの宗教文化を理解する上で、重要な手がかりとなります。

参考文献

ドミニク・ブリケル『エトルリア人 ローマの先住民族 起源・文明・言語』白水社、2009年。
平田隆一『ローマ帝国における臓卜師（haruspices）の盛衰の諸原因』東北学院大学学術研究会、2010年。https://www.tohoku-gakuin.ac.jp/research/journal/bk2010/pdf/bk2010no05_03.pdf。

関連項目

* Bārû - メソポタミアの臓卜師

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