自己検閲

自己検閲とは

自己検閲とは、社会心理学の用語で、周囲の反応を気にして自分の意見や考えを表明することを控える行動を指します。これは、個人が社会的な圧力や集団心理の影響を受け、自身の発言や行動を抑制する現象です。

また、表現の自由という観点からは、書籍、映画、テレビ番組などの制作者が、政府や社会からの批判や非難を恐れて、議論を呼びそうな内容や特定の集団の感情を害する可能性のある部分を自主的に削除または修正することを指します。

自己検閲は、制作者自身だけでなく、映画プロデューサー、テレビ局、出版社など、表現物を扱う組織によっても行われる場合があります。これは、社会的な論争や批判を避け、安定した活動を維持するための措置として捉えられます。自己検閲は、時に「自我審査」とも呼ばれます。

自己検閲の背景

自己検閲は、宗教的、倫理的なタブー、自国の関わる戦争や領土問題、マイノリティに関する問題、有力者への批判など、社会的にデリケートな問題に対して行われることが多いです。

特に、中国、シンガポール、ロシアなど、文化産業が市場経済化されている一方で、権威主義的な政府を持つ国では、自己検閲が顕著に見られます。しかし、近年では、ポリティカル・コレクトネス（政治的正しさ）の観点から、自由主義国家でも自己検閲が広まっています。

これは、「政治的に正しくない」とされる表現を自主的に規制したり、内容を削除したりする一方で、「政治的に正しい」とされる表現を積極的に取り入れる動きとして現れます。これらの自主[[規制]]は、政府の直接的な命令によるものではなく、苦情や批判を恐れて自主的に行われることが多いです。

自己検閲は、言葉狩り、放送禁止[[用語]]、キャンセルカルチャーといった現象とも関連しており、社会における表現の自由や多様性について深く考えるきっかけとなります。

社会集団内における自己検閲

自己検閲は、社会集団の内部でも発生します。例えば、PTAの総会で、ある保護者が特定の教師を信頼しているものの、他の保護者から解任案が提出された場合を考えてみましょう。

もし、解任案に反対する保護者が自分一人だった場合、多くの人は、圧倒的多数の意見に逆らうことを恐れ、解任案への反対を撤回するでしょう。これは、集団から孤立することを避けるための自己検閲の一例です。

しかし、この保護者が、周りの意見に屈せず、自分の信念を貫き、教師への支持を続けた場合、それは行動の一貫性を示し、結果として、解任を推進するグループに亀裂を生じさせる可能性があります。集団内部に亀裂が生じれば、教師は解任を免れる可能性も出てきます。この例は、集団における自己検閲の影響力と、それに抗うことの重要性を示唆しています。

日本における自己検閲

日本では、第二次世界大戦終結後、連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）による検閲が行われました。この検閲の影響で、日本の新聞社や出版社は、自主的に占領軍の検閲に触れるような内容や用語の使用を避けるようになりました。

評論家の江藤淳は、この現象を「日本人の自己検閲」と呼びました。GHQは、公文書における「大東亜戦争」や「八紘一宇」といった用語の使用を禁止し、公教育の場でもこれらの用語は使用されなくなりました。この歴史的な背景が、現代の日本における自己検閲の意識にも影響を与えていると考えられます。

まとめ

自己検閲は、社会心理学と表現の自由という二つの側面から捉えることができる複雑な現象です。個人レベルでは、集団からの孤立を避けるために、また社会レベルでは、批判や論争を避けるために、自己検閲は行われます。この現象を理解することは、社会におけるコミュニケーションや表現の自由について深く考える上で重要です。

参考資料

江藤淳『閉された言語空間:占領軍の検閲と戦後日本』文春文庫、1994年。ISBN 4167366088

関連項目

自主[[規制]]
集団主義
プレスコード
ポリティカル・コレクトネス
自粛警察

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