プレスコード

プレスコード：戦後日本の言論統制

太平洋戦争の終結後、日本は連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の占領下に置かれました。GHQは日本の社会構造や思想を改革するために様々な政策を実施しましたが、その一つにメディア統制がありました。この統制の中核を担ったのが「プレスコード（Press Code for Japan）」です。

プレスコードは正式にはSCAPIN-33「日本に与うる新聞遵則」と呼ばれ、1945年9月19日に発令、21日に発布されました。「日本新聞遵則」や「日本出版法」と呼ばれることもあります。GHQ批判、原爆関連の記事などが検閲の対象となり、発禁処分となることもありました。この検閲は、新聞や雑誌だけでなく、個人的な手紙や学校の同窓会誌、村の青年会誌といった、幅広い出版物に及んだのです。

プレスコード発布の経緯

プレスコードの発布は、GHQによる検閲と情報統制の始まりを意味していました。その端緒となったのは、1945年9月10日に発せられたSCAPIN-16「新聞報道取締方針」です。この通達では、言論の自由はGHQや連合国への批判、大東亜戦争の被害に関する言及といった制限付きで奨励されました。

しかし、この方針にもかかわらず、朝日新聞が掲載した鳩山一郎の談話や、フィリピンにおける日本軍の蛮行を批判する記事を巡り、朝日新聞社は2日間の業務停止命令（SCAPIN-34）を受けました。これはGHQによる検閲と情報統制の始まりを明確に示す出来事でした。

SCAPIN-33プレスコードは、この流れの中で発布されました。最高司令官ダグラス・マッカーサーの名前で通達され、米太平洋陸軍総司令部民事検閲部が実施主体となり、GHQ参謀部の情報担当であるG-2部の下部組織である民間検閲支隊（CCD：Civil Censorship Detachment）が検閲業務を実際に行いました。

1948年には、CCDの検閲スタッフは370名、日本人嘱託は5700名にも上ったとされ、新聞記事だけでも1日に約5000本以上がチェックされたと言われています。

プレスコードの内容と検閲の実態

プレスコードの趣旨は「連合軍最高司令官は日本に言論の自由を確立せんが為茲に日本出版法を発布す。本出版法は言論を拘束するものに非ず寧ろ日本の諸刊行物に対し言論の自由に関し其の責任と意義とを育成せんとするを目的とす。」とされています。しかし、実際にはGHQに都合の悪い情報は厳しく制限されました。

江藤淳の研究によれば、具体的な検閲対象は30項目にも及び、GHQ批判、戦争犯罪に関する記述、共産主義思想、国民道徳に反する内容などが含まれていました。検閲の結果、多くの記事や書籍が削除、発禁処分となりました。

東洋経済新報の記事を巡る石橋湛山への圧力、永井隆の『長崎の鐘』の出版延期、吉田満の『戦艦大和ノ最期』の削除、そして多数の戦前・戦中の書籍の没収など、検閲の影響は多岐に渡り、日本の言論空間を大きく制限しました。映画においても、戦後制作された新作のシナリオ検閲や旧作のフィルム検閲が行われ、多くの作品が削除・公開停止となりました。

プレスコードの終焉とその後

プレスコードは、1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約の発効に伴い失効しました。しかし、GHQによる検閲の影響は、戦後の日本の言論や出版文化に大きな影を落としました。CCDが収集した資料は、現在メリーランド大学のプランゲ文庫に保管されており、戦後日本の歴史研究にとって貴重な資料となっています。

プレスコードは、戦後日本の言論統制の象徴であり、表現の自由と民主主義の確立に向けた道のりを考える上で、重要な事例となっています。

もう一度検索