臭化エチジウム

臭化エチジウム：性質、用途、安全性、そして代替品

臭化エチジウム（Ethidium bromide, EtBr）は、分子生物学実験において長年DNAの検出に用いられてきた有機化合物です。その特徴は、DNAの二重らせん構造に挿入（インターカレーション）することで蛍光強度が増大することです。紫外線照射下で赤橙色の蛍光を発するため、アガロースゲル電気泳動後のDNAバンドの可視化に非常に有用でした。しかしながら、強力な変異原性を有することから、近年では安全性の高い代替品への移行が進んでいます。

臭化エチジウムの性質

EtBrは、化学式C₂₁H₂₀BrN₃で表される三環式平面構造を持つ有機塩です。水への溶解度は低く、DNAへのインターカレーションによって蛍光強度が約20倍に増強します。この性質は、DNAの検出に利用されてきました。また、獣医学分野ではトリパノソーマ症治療薬として用いられてきた歴史もあります。

臭化エチジウムの利用

EtBrは、主に以下の用途で利用されてきました。

アガロースゲル電気泳動: PCR産物や制限酵素処理断片などのDNA断片の検出、サイズ判定に利用されます。一本鎖RNAも検出可能なのは、RNAが高次構造をとって分子内で塩基対合を形成し、EtBrがそこにインターカレーションするためです。
塩化セシウム平衡密度勾配遠心法: DNAを分離精製する際に用いられます。EtBrのインターカレーションはDNAの密度を変化させるため、環状プラスミドや線状DNA、GC含量の違いなどを利用してDNAを分離することができます。
* 染色体観察: 染色体の凝集を抑制する目的で、染色体観察に用いられることもあります。

臭化エチジウムの危険性

EtBrは、強力な変異原性を持つことが知られています。DNAにインターカレーションすることで、DNA複製や転写を阻害し、変異を引き起こすと考えられています。そのため、発癌性や催奇性も懸念されています。皮膚、眼、粘膜への刺激性も有します。

臭化エチジウムの取り扱いと廃棄

EtBrの取り扱いには細心の注意が必要です。粉末やエアロゾルの発生を防ぐため、ドラフトチャンバー内での作業が推奨されます。ゴム手袋の着用は必須です。皮膚や眼に入った場合は、大量の水で15分以上洗浄します。吸入や摂取をした場合は、直ちに医師の診察を受けてください。廃棄時は、活性炭に吸着させて焼却するか、専門業者に委託する必要があります。EtBrの残存変異原性を考慮し、単純な脱色処理は避けるべきです。

臭化エチジウムの代替品

EtBrの強い変異原性から、より安全な代替品が開発されています。SYBR Green IなどのSYBR系色素は、二本鎖DNAに特異的に結合し、高い感度で緑色蛍光を発します。紫外線を使用せず、青色光で励起できるため、安全性も高く、EtBrに比べて変異原性も低いとされています。ただし、DMSO溶液であるため、皮膚への浸透性が高い点には注意が必要です。

まとめ

EtBrは、DNAの検出に優れた性能を示す一方で、高い変異原性を有する危険な試薬です。安全な実験環境と適切な廃棄方法を遵守することが重要です。現在では、より安全で高感度な代替品が利用可能となっており、それらへの移行が推奨されています。実験を行う際には、常に安全性を第一に考慮し、適切な手順に従う必要があります。 適切な安全データシート(SDS)を参照し、必要に応じて専門家の指導を受けることをお勧めします。

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