與那覇潤

與那覇潤：歴史学者から評論家へ、そして現代社会への提言

與那覇潤氏は、1979年生まれの日本の歴史学者、評論家です。東京大学大学院にて博士号（学術）を取得後、愛知県立大学にて准教授を務めました。専門は日本近代史、現代史、東アジア地域研究と多岐に渡り、その幅広い知見を活かした著作・講演活動で知られています。

学究から論壇へ：独自の日本史観と社会批評

與那覇氏の学術研究は、従来の「西洋化」「近代化」といった枠組みを超え、「中国化」「再江戸時代化」という独自の視点を取り入れた日本史解釈で注目を集めました。特に2011年に発表した『中国化する日本――日中「文明の衝突」一千年史』は、大きな反響を呼びました。この「中国化」という概念は、単純な中国の影響ではなく、「普遍的理念に基づく独裁的権力の確立と中間共同体の崩壊」という、より複雑な社会構造の変化を指し示すものです。

大学准教授としての活動を経て、2017年に愛知県立大学を退職。以降は、在野の立場から精力的に執筆活動を行い、現代社会における様々な問題点について、鋭い批評を展開しています。NHK Eテレの討論番組「新世代が解く！ニッポンのジレンマ」への出演や、ジュンク堂書店池袋本店での作家書店員としての活動など、活動の幅は多様です。

歴史の終わりと現代社会への問い

2018年の著書『知性は死なない――平成の鬱をこえて』において発表した「歴史学者廃業記」では、現代日本が「歴史の終わり」に達したと主張。従来の歴史的解釈の限界を指摘し、歴史を参照しない新たな概念を用いた考察へと転換しました。

近年は、新型コロナウイルス禍における日本の対応や、社会のあり方、そして個人の生き方について、独自の視点から分析・提言を行っています。コロナ禍においては、反自粛派として知られ、日本の世論の欧米コンプレックスを批判するなど、従来の学問にとらわれない自由な言論を展開しています。

多様な影響と評価

與那覇氏は、陳舜臣、本多勝一、佐藤忠男といった著名な作家・ジャーナリストから多大な影響を受けています。また、東大在学中には安冨歩氏とも交流がありましたが、後に決裂した経緯を著書で明かしています。

その著作は、経済学者の中谷巌氏から西洋中心史観を相対化したものとして高く評価されるなど、学界内外から注目を集めています。一方で、佐藤優氏からは『翻訳の政治学』が歴史に残る研究、『平成史』がヴィルヘルム・ディルタイの現代版と評されるなど、異なる視点からの評価も得ています。

豊富な著作と活動

與那覇氏の著作は多岐に渡り、『翻訳の政治学』『帝国の残影』『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』『知性は死なない』など、多くの単著を発表。さらに、池田信夫氏、斎藤環氏らとの共著も多数出版しています。オンラインメディアへの寄稿や連載記事なども多数執筆しており、精力的な活動を続けています。

2020年には、『心を病んだらいけないの？――うつ病社会の処方箋』（斎藤環氏との共著）で第19回小林秀雄賞を受賞。これは、彼の学術的な研究だけでなく、現代社会への深い関心と考察が認められた証と言えるでしょう。

結論：変革の時代における思考の羅針盤

與那覇潤氏の活動は、歴史学にとどまらず、現代社会への鋭い批評、そして未来への示唆に満ちています。彼の著作は、変革の時代を生き抜くための羅針盤として、多くの読者に示唆を与え続けています。今後、どのような視点から社会を分析し、提言していくのか、目が離せない存在です。

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