中谷巌

中谷巌について

中谷巌（なかたに いわお）は、1942年1月22日生まれの日本の経済学者です。マクロ経済学を専門とし、多摩大学名誉学長、一橋大学名誉教授という要職を歴任しました。また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの理事長も務めた経験を持ちます。

経歴

大阪府出身の中谷氏は、大阪府立住吉高等学校を卒業後、1965年に一橋大学経済学部を卒業し、日産自動車に入社しました。その後、1969年に会社を休職し、ハーバード大学大学院へ留学。1971年に日産自動車を退職し、ハーバード大学経済学部助手となります。1973年から1974年にかけてハーバード大学で経済学博士号を取得し、同大学の経済学部講師を務めました。

帰国後は、大阪大学経済学部助教授（1974年-1984年）、教授（1984年-1991年）を経て、1991年10月より一橋大学商学部教授に就任しました。その間、1988年には論文「責任国家・日本への選択」で石橋湛山賞を受賞しています。1993年には、細川内閣の「経済改革研究会」（平岩研究会）委員、1998年には小渕内閣の「経済戦略会議」議長代理を務めるなど、政府の委員としても活躍しました。

1999年6月からはソニーの取締役（2003年6月～2005年6月は取締役会議長）、1999年9月からは多摩大学経営情報学部教授、2000年4月から2020年3月まで三和総合研究所（現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング）理事長、2001年9月～2008年3月まで多摩大学学長を務めました。その他、スカパーJSAT、アスクル、WDI、富士火災海上保険など、複数の企業で取締役を歴任し、2008年からは多摩大学名誉学長に就任しています。2010年2月からは一般社団法人不識庵理事長も務めています。

人物

中谷氏は、小渕内閣の首相諮問機関である「経済戦略会議」で議長代理を務めるなど、政府の委員を多く務め、1990年代には構造改革推進の立場から政策決定に大きな影響力を持っていました。しかし、2008年に著書『資本主義はなぜ自壊したのか』を発表し、新自由主義、市場原理主義、グローバル資本主義との決別を表明し、その立場を大きく転換しました。この著書は、週刊ダイヤモンドの「経済学者・経営学者・エコノミスト142人が選んだ2009年の『ベスト経済書』」で5位に選ばれるなど、大きな反響を呼びました。

また、社外取締役制の推進者としても知られており、複数の企業の社外取締役を務めた経験から、「取締役会に出るのが楽しみ」と語っています。NPO全国社外取締役ネットワークの代表幹事として、社外取締役制の普及にも尽力しています。

マクロ経済学の教科書として、日本の大学で広く使用されている『入門マクロ経済学』の著者としても知られています。さらに、テレビ東京の経済ニュース番組「ワールドビジネスサテライト」では、長年コメンテーターを務め、経済に関する分かりやすい解説で視聴者からの信頼も厚いです。

新自由主義からの転向

中谷氏は、著書や論文を通じて、過去の自身の言動を自己批判し、新自由主義からの転向を明確にしました。特に、小泉純一郎・竹中平蔵・奥田碩の3氏が推進した構造改革を批判し、ベーシック・インカムの導入などを提唱しています。また、労働市場については、デンマーク・モデルを理想としています。

中谷氏は、「新自由主義による自由取引市場の形成は、人類の滅亡を早める」と主張し、グローバル資本主義に一定の規律を設け、制御する必要性を訴えています。そのための統制機関として、世界中央銀行や世界中央政府の設置を提唱しています。

この転向について、伊東光晴（京都大学名誉教授）は、都留重人の言葉を引用しながら基本的に支持を示しつつも、アダム・スミスに関する記述の正確さに欠ける点や、竹中氏との同質性も指摘しています。また、しんぶん赤旗は、この転向を「小泉改革、そしてこれを持て囃した大手マスコミの姿勢が誤りだった事を示す一つの象徴」と評価しています。

主な著書

『入門マクロ経済学』（日本評論社、1981）
『転換する日本企業』（講談社現代新書、1987）
『ボーダーレス・エコノミー 鎖国国家日本への警鐘』（日本経済新聞社、1987）
『ジャパン・プロブレムの原点』（講談社現代新書、1990）
『＜論壇から見た＞激動の時代、日本の選択』（PHP研究所、1991）
『日本企業復活の条件』（東洋経済新報社、1993）
『日本経済の歴史的転換』（東洋経済新報社、1996）
『日本経済「混沌」からの出発』（日本経済新聞社、1998）
『痛快！経済学 グローバル・スタンダード』（集英社、1999）
『eエコノミーの衝撃』（東洋経済新報社、2000）
『にっぽんリセット』（集英社、2001）
『次世代リーダー学』（小学館文庫、2003）
『中谷巌の「プロになるならこれをやれ！」』（日本経済新聞社、2003）
『痛快！経済学 2』（集英社、2004）
『プロになるための経済学的思考法』（日本経済新聞社、2005）
『愚直に実行せよ！ 人と組織を動かすリーダー論』（PHPビジネス新書、2006）
『資本主義はなぜ自壊したのか〜「日本」再生への提言』（集英社、2008）

共著

『経済改革のビジョン 「平岩レポート」を超えて』（大田弘子共著、東洋経済新報社、1994）
『ITパワー 日本経済・主役の交代』（竹中平蔵共著、PHP研究所、2000）
『若きサムライたちへ 自分を生きる10のメッセージ』（田坂広志共著、PHP研究所、2001）

脚注

中谷巌のページ - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
IT's Point of View

関連項目

一橋大学の人物一覧
ハーバード大学に関係する日本人の一覧

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