興善寺 (奈良市十輪院畑町)

奈良市にある浄土宗寺院、法輪山 興善寺

興善寺は、奈良市十輪院畑町にひっそりと佇む浄土宗の寺院です。法輪山と号するこの寺院は、創建の詳細は不明ながら、古くは元興寺の「奥之院、奥之坊」として存在し、元興寺の子院であったと伝えられています。

歴史

興善寺の歴史は古く、創建の詳細は定かではありません。しかし、元興寺との深いつながりがあったことはわかっています。天正年間に慶誉和尚が堂を建立して中興し、知恩院に属しました。慶長8年（1603年）には、興善寺内地子の赦免状が出されており、その存在が公にも認められていました。

伽藍

本堂

本堂は、桁行柱間三間（実長五間）、梁行柱間五間（実長五間）の広々とした空間で、広縁が巡らされています。寄棟造・本瓦葺の屋根を持ち、正面には一間の向拝が設けられています。慶安2年（1649年）に第7世長誉上人によって再建されたもので、歴史を感じさせる佇まいです。本堂脇壇には、浄土宗の祖である善導大師・円光大師の両祖師像と、7世長誉上人の木彫像が祀られています。

観音堂

観音堂は、奈良坊目拙解にもその存在が記されています。中央には木造阿弥陀如来立像、左には十一面観音立像、役行者像、弘法大師像、右には不動明王像が祀られています。これらの像のうち、阿弥陀像、役行者像などはもと公納堂にあったもので、現在も毎月公納堂町の人々が参詣に訪れます。

納骨位牌堂

納骨位牌堂は、平成4年まで鐘楼があった場所に建てられています。鐘楼は梵鐘が戦時供出されたため堂のみが残っていましたが、納骨堂として新たに生まれ変わりました。内部には石仏の阿弥陀三尊像が安置されています。

文化財

重要文化財：源空、証空等自筆消息 2巻

興善寺には、貴重な文化財が所蔵されています。その中でも特に重要なのが、源空（法然）、証空らの自筆消息2巻です。この消息は、本尊である木造阿弥陀如来立像の像内から、1962年（昭和37年）に発見されました。紙背には結縁交名が記されており、別に漆塗筒形納骨器も取り出されました。本尊含めいずれも重要文化財に指定されています。源空の書状は非常に貴重で、証空らの真筆も極めて稀であるため、発見当時は大きな話題となりました。

本尊の右足枘内外側には墨痕がかすかに見られ、原銘の一部と見られています。左足枘内外側には、この阿弥陀像がもと東山内田原（今の奈良市都祁辺り）にあったと後筆で銘記されています。紀年は「◻︎正十七年四月廿◻︎日」と読め、地元を離れる際に記されたと思われるが、永正17年（1520年）か天正17年（1589年）かははっきりしていません。

石造阿弥陀三尊像

位牌納骨堂には、鎌倉時代の造立である大きな阿弥陀石仏が安置されています。中尊に阿弥陀如来、両脇侍に観音菩薩、地蔵菩薩を配した三尊仏は珍しく、室町時代に多く見られた阿弥陀・地蔵を併刻した双石仏の先駆とも見られています。

興善寺は、静かで落ち着いた雰囲気の中で、歴史と文化に触れることができる場所です。ぜひ一度、足を運んでみてください。

参考文献

角川地名大百科辞典編纂委員会編「角川日本地名大辞典29 奈良県」、角川書店、1990年3月、ISBN 9784040012902
奈良市史編集審議会編『奈良市史 社寺編』、吉川弘文館、1985

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