舘知宏

舘 知宏

舘 知宏（たち ともひろ）氏は、1982年に生まれた日本の研究者であり、折紙工学という独自の分野を開拓している。そのアプローチは、単に紙を折る技術としての折り紙にとどまらず、折り紙が持つ数学的な構造や法則性、さらには物体が変形する際の力学的性質である構造剛性、コンピューターを用いた幾何学計算、そして建築学や材料科学といった、一見すると異なる多様な学問分野の知見を巧みに融合させている点に大きな特徴がある。彼は現在、日本の最高学府の一つである東京大学の教授として、その革新的な研究を推進している。

舘氏の学術的な道のりは、まず2001年に武蔵高等学校を卒業し、その後、東京大学工学部建築学科に進学したことに始まる。2005年に同学科を卒業後、さらに東京大学大学院工学系研究科の建築学専攻へと進み、博士課程で研鑽を積んだ。2010年には「計算折紙幾何学に基づく建築形態デザインシステムに関する研究」と題された学位論文を提出し、博士（工学）の学位を取得した。この論文が示すように、彼は早い段階から、折り紙の数学的な原理を建築物の設計や構造に応用する可能性に着目していたことがわかる。

彼は単なる工学者としてだけでなく、折り紙作家としてもその名を知られている。特に、厚みのある材料や硬い素材を用いても折りたたみや展開が可能な「剛体折り紙」という特殊な分野において、世界を代表する専門家の一人として広く認識されている。剛体折り紙は、単なる芸術作品の制作に留まらず、宇宙構造物や建築、工学分野における応用可能性を秘めており、その研究は極めて学際的である。

舘氏の作品には、その高度な技術と革新性が遺憾なく発揮されている。例えば、鏡面仕上げされた金属板を用いて計算に基づき精緻に折りたたまれた「計算された正確な裸鰓類」は、素材の持つ特性と折り紙の幾何学的正確さが見事に融合した例として挙げられる。また、イスラエルにあるティコティン日本美術館に展示されている「ユタ・ティーポットの折り紙バージョン」も、既存の三次元形状を折り紙の原理で再現するというユニークな試みであり、彼の研究が芸術表現にも深く結びついていることを示している。

研究活動と並行して、舘氏は学術的な成果を広く共有するための著作活動にも積極的に取り組んでいる。特に注目されるのは、田中浩也氏と共同で執筆し、2020年に彰国社から出版された書籍『コンピュテーショナル・ファブリケーション：「折る」「詰む」のデザインとサイエンス』である。この著作は、デジタル技術と連携した新たなものづくりの手法、特に折り紙や積層といった原理に基づいたデザインや科学について解説しており、この分野に関心を持つ研究者やデザイナー、学生にとって重要な指針となっている。他にも、図形科学や3D-CADに関する共著書、国際的な折り紙科学会議の議事録の共編、展覧会カタログへの寄稿など、多岐にわたる出版を通じて、自身の研究成果や関連分野の知識を社会に還元している。

舘知宏氏の研究は、伝統的な遊びや芸術である「折り紙」が、いかに現代の科学技術、特に工学、建築、計算科学と深く結びつき、未来のものづくりや構造設計に革新をもたらしうるかを示している。剛体折り紙の世界的権威として、彼の研究は国内外から高い評価を受けており、東京大学教授として、次世代の研究者育成にも貢献している。そのユニークなアプローチと多様な分野を横断する知見は、今後も新たな発見や技術革新を生み出す原動力となるだろう。

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